07.イケメン化、そしてJKが来る
俺、飯山界人は、ある日異世界を行き来する不思議な鏡を手にする。
異世界で肉焼いて食っていると、フェンリルが入ってきた。
そいつに肉を食わせたところ、従魔になると言い出した。
フェンリルを従魔にしたところ、俺が進化して……イケメンになった……。
……さて。
場所は、現代にあるばあさんの家にて。
「おお! なんだこれは! この箱はなんだ!?」
「テレビだよ」
「テレビ! なんと面妖な! 板の中で人が動いておるわ! こんなぺらっぺらの板なのに! なんと不思議な!」
ばあさんちは純和風の武家屋敷だ。
居間にはナイスバディの超絶美女(+犬耳尻尾装備)がうろついてる。
彼女は……俺が従魔にしたフェンリル、の人間の姿だ。
全裸だったのはさすがにまずいと、俺の着ていたワイシャツを着せた次第。
すごい巨乳のめっちゃ美人が、裸ワイシャツ一枚って……や、やばいな。
【スキル《明鏡止水》が発動しました】
すぅ……と高ぶった気持ちが穏やかになる。
明鏡止水(SSS):危機的状況等によって、高ぶった気持ちを一瞬で穏やかにする。オンオフ可能。
どうやら俺の手に入れた新しいスキルのおかげで、フェンリル登場にも、美少女化したことにも、あまり大きくは驚かなかったらしい。
で、スキルを使って調べたところ、どうやら特定の行動がトリガーとなって、スキルを修得することがありえるらしい。
スキルの修得には、一定の条件が必要なんだそうだ。長い修練をつんで、ようやくゲットみたいな……。
しかし、俺には称号【異世界のまれびと】があり、これには成長速度を爆上げする効果がある。
結果、簡単に経験値がたまって、スキルをあっという間に修得できた次第。
さて、スキル修得について、そして新スキルの効果はわかった。次に……気になることがある。
「で、フェンリルさんよ」
「む? 主よ、一つ良いか?」
「え、あ、ああ……なんだよ」
「吾輩に名前をつけるが良い」
「名前?」
「うむ。吾輩は貴様のペットになったのだ。名をつけてもらわねばこまる」
「フェンリルは種族名だもんな……」
さて、どうするか……。
てゆーか、成り行きでペットとしてこの馬鹿でかい犬を飼うことになったが、人間になれるんだよな……。
フェンリルは人化ってスキルがあるらしい。こいつが人間の姿を取ったのは、その方が俺と話しやすいからだそうだ。
ずっと見下ろしてるとクビが痛いらしい。
「じゃあ……フェリ。フェリはどうだ?」
「うむ、良かろう。なかなか良いセンスをしておるな!」
「それはどうも……で、フェリ。この、俺の顔……身体、一体全体どういうことなんだよ?」
俺はアイテムボックスから、世界扉を取り出す。
空中に浮かぶ鏡のなかには、どう見ても美形アイドルな男がいた。
まず、背が伸びてる。元々は168くらいしかなかったのだが、今は余裕で180超えている。
次に顔。前は普通の醤油顔だったのだが、ドラマとかCMに出ていてもおかしくないレベルで整った物になっていた。
体も、細身なのに筋肉質だ。前は仕事のストレスでスイーツとかラーメンとか食いまくって、若干太っていたんだけど。 今はスポーツ選手真っ青なくらい、引き締まった体になっている。
「存在進化したのだろう?」
「存在進化……?」
「うむ。魔物によく見られる現象だ。魔物は他の命を奪い、その魂を取り込むことで、強くなる。さらに多くの魂を取り込むと、その魂を入れておくにふさわしい器へと、肉体が変化するのだ」
ポケ●ンみたいなものだろうか。
「主は神獣である吾輩と契約した。我が体の中には神の力が宿っている。それは主である貴様と共有することになる。下僕の持ち物は主人の物と同義だからな」
フェリの持つ神の力を、俺も持つことになったってわけか。
「しかし神の力は強大すぎてな、普通の人間では収まりきれない物。ゆえに、主の体が神の力を受け入れることが可能な作りへと、変わったのだ」
「な、なるほど……このイケメン化は、フェリと契約したことによる変化ってことなのな」
「そういうことだ。ちなみに吾輩との契約を解いても、一度変質した肉体が元に戻ることはないから安心するがよいぞ」
そ、そっか……。この体、このままなんだ……。
しかしなんだ……その、こんなイケメンが俺……?
数日前までは、都会に掃いて捨てるほどいるただのサラリーマンから、芸能人みたいなかっこいい男になるなんて……。
「これも、異世界に来たおかげか……ありがとう、ばあさん」
ぴこん♪
【栗粉餅買っといて♪】
栗子餅とは南信(長野の南)でよく売ってる和菓子だ。
おもちを栗あんで包んだような和菓子で、ばあちゃんの大好物である。買っとこ……。
「主よ! テレビ! すごいな! これはどういう理屈で動いてるのだー?」
「ええと……この中で動いてるんじゃなくて、映像をよそでとって、映してるんだ」
「さっぱりわからんな! しかし……おほー♡ おもしろき……♡」
テレビの前で、四つん這いになって、食い入るように画面をのぞき込んでいる。
……当然、ケツが見えるわけで。明鏡止水が、発動するわけで。うん。
「着る物買わないとな」
「吾輩は人間の衣服なんぞ着ないぞ?」
「こっちの世界では、人間は服を着るものなの!」
世界扉を使えば、俺の許可があれば異世界と現実とを行き来できる。
一旦戻ろうとしたところを、このフェリが着いてくといってきかなかったので、仕方なく連れてきた次第だ。
「現実世界で暮らしていく以上、ここでは人間の姿でいろ」
「えー。まあ仕方ない、よいぞ」
「嫌にあっさり承諾するんだな」
「主が望むことは、何でもするからな。従魔は」
「な、なんでも……」
た、例えばえっちぃことでも【明鏡止水が発動しました】あ、うん。そういうのはやめておこう。
犬だしこいつ。
「しかし女物の服か。どこで買うか……いや、そもそも男の俺が女物の服を買うのはちょっとな……下着とか……」
誰か買ってきてくれないだろうか。
いや、この田舎に女の知り合いなんていない。
東京では、何人かいたけどな。
誰か、買い物を手伝ってくれる、都合のいい女なんていないだろうか……。
と、そのときだった。
ピンポーン……♪
「む! なんだ今のは! 敵襲か!」
「客だよ。おまえはそこでおとなしくしてろよ。いいか、部屋から絶対に出るなよ?」
「わかったわかった。さっさと行くがよい」
肘をついて、フェリがテレビを見出した。
もう日本に順応してやがる……。
俺は玄関へと向かう。
すると……。
「はいどちらさ……って、おまえら」
玄関には、二人の女がいた。
どちらにも見覚えがあった。
「なぎ先生……」
俺が出版社で務めていたときに、世話していた女流漫画家、南木曽なぎ。
眼鏡をかけた、大人っぽい18歳の美少女だ。
「それに……確かあんたは……電車で助けたJK……」
黒髪ロングの美少女。この子が電車で痴漢に遭っているところを、助けたことがあった。
「なんでここに……?」
「「…………」」
ふたりとも、ぽーっとした表情で俺を見つめている。
ん? なんだこの反応……。
「もしもし?」
「あ、えと、すんません! ここに、飯山界人さんってかた、いないっすかね?」
なぎがかしこまった言い方で言う。
目をきょろきょろさせている。ちら、と俺と目が合うと、すぐに照れて目をそらした。
「いや、俺だけど」
「は……?」
ぽかんとするなぎ。
俺は、今度はJKのほうをみやる。
「君は確か、前に電車の中で会った子だよね?」
「は、ひぃ……」
しゅうう……とJKが顔から火が出るんじゃないかってくらい、真っ赤になってうつむく。
二人ともなんだこの反応……って、そうだった!
俺、今、超イケメンなんだった!(語彙力)。
なるほど……だから……。
飯山界人を呼んだはずが、知らない人が出てきて、戸惑っているのか(超理解)。
「か、かっこよすぎて……まともに目ぇ……あわせられないっすぅ……♡」
「は、はあ……いや、その……なぎ」
「ひぅ……♡ なんすかぁ~……♡」
なんかもうすっかりメロメロになってる。
まあ顔がこれじゃそうなるか……。
てか、どうしよう。
俺が飯山界人ですって言ったところで、信じないだろうし。
でも……俺を訪ねてきたって子らを、嘘ついて追い返すわけにもいかないしな……。
と、そのときだった。
ボンッ……!
『ふぎゃああああああああああ!』
「ど、どうしたフェリー!?」
居間のほうから大きな爆発音がしたのだ。
慌てて駆け寄ると……。
『あば、あばば……』
人化がとけて、馬鹿でかいフェンリルの姿になっているフェリが、仰向けに倒れている。
『し、しびれ……』
「しびれ……っておまえ! テレビの電源コードかじったな!?」
それで、感電したわけだ。
なんたる駄犬っぷり……。
「って、燃えてる! 【水流】!」
俺は初級の水魔法を使う。
感電からの爆発による火を、魔法を使って、手から出した水で鎮火させる。
「ふぅ……これでよし……」
「「…………あ、あの」」
「え? あっ!!!!!」
居間には、なぎとJKが立っていた!
「な、なんすかその……でかいワンコロ……」
「……い、今、て、手から水が……ぴゅ~って……」
し、し、しまったぁああああ【明鏡止水が発動しました】。うん。
どうやら俺はファンタジーな存在を、一般人に見られてしまったようだ。