62.勇者の導き手
俺は異世界へやってきた。だが王都を訪れたところ、なぜか周りからきゃあきゃあ言われる羽目になる。
商人のクゥジョーに事情を聴きに来たのだが……。
彼の持つ商会の、客間にて。
「ええと、つまり……だ。俺がブレイバ君たち勇者パーティの、マスター的な存在として認知されてると?」
クゥジョーからの話をまとめるとこうなる。
こないだ、俺は流れでブレイバ君とバトルした。その結果ぼこぼこにしたわけなのだが。
あれ以降、ブレイバ君たちは大奮起。
今まで以上の強さを身に付けたらしい。
結果、『紅のローブを着た賢者は、勇者ブレイバたちのマスターで、彼が強くなったのはすべて賢者様のおかげだ』と。
王都の人たちは思っている……と。
「というよりですね、ブレイバ様が自分でそうおっしゃってたんですよぉ」
「……なる、ほど。そういうことがあったんですね」
余計なことを……。
俺は別にブレイバ君らを育てた気なんて全くなかった。てゆーか、決闘したのだって、なんで決闘したのかだって忘れてるレベルだぜ、俺?
それなのに強くなったのが俺のおかげだぁ……?
そのせいで、知らん人からまとわりつかれて迷惑だったんだが……。
「いやぁ、さすが賢者様。あの決闘にそんな深い意味があったとは」
ねえよ。
はぁ……めんどくさいな。王都にいるとこの先もずっと付きまとわれるのか。
こりゃしばらく身を隠したほうがいいな。と言っても、洋館に引きこもるのもなんかなぁ。
そうだ。
「クゥジョーさん。どこか、人のいない静かなところ知りませんか?」
「人のいない……なるほど!」
なるほど?
何を誤解してるのだろうか……。
クゥジョーはすぐに地図を、使用人にもってこさせて説明する。
「この七獄と呼ばれる大穴はどうでしょう。【人が決して寄り付かない場所】です」
おお、それはちょうどいい。
そこをしばらくの活動拠点にするか。具体的には、狩場。現実の金は、まあもうありあまるくらいあるんだけど、老後にそなえておきたいわけよ。
王都で狩りを行うと面倒がついてまわるだろうし。
よしその七獄に行こう。
「地図はいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞどうぞ!」
「ありがとうございます。あ、そうだ。ブレイバ君たちにあったら、これを渡しておいてください」
俺はアイテムボックスから、こないだ家で作った防具一式を取り出す。
「こ、この見事な防具は?」
「ブレイバ君たちへの、まあプレゼントですかね」
勇者の武具一式売っぱらって、大金を得たけど、子供から金を巻き上げたみたいで寝覚めが悪かった。
だから新しい防具を作ったのである。
「弟子たちへのプレゼントということですね!」
違う。
「まあ、そんな感じでしょうか」
もうなんか色々めんどくさかったので、後のことはこいつに任せて、ちゃっちゃと俺はその七獄やらに行く事にしたのだった。