53.超越者の男、分断者《ディバインダー》
界人が妖刀を使用する、少しだけ前の出来事だ。
ひとりの男が、JR松本駅の改札をくぐる。
「クソ遠いだろ……ったく……」
ジャージ姿の男。
裏の世界の住人は、彼を【分断者】と呼ぶ。
彼は……超越者である。
超越者。それは、逆異世界転生者のこと。
元々は異世界の住人だったが、現実の世界へと転生してきた人物を言う。
そういう類いの人間は、実は現実にはかなり多い。
たとえば、何を書いても神作品となり、あらゆる人の感情を揺さぶる男【伝道者】。
たとえば、どんな行為をネット上で行っても、決して炎上することのない男【不燃者】。
このように、超越者たちにはみな、コードネームのようなものが着いている。
それは自称だったり、あるいは、【上】がつけていたりする。
超越者はマイノリティであり、そして……この現実世界においては、イレギュラーだ。
現実の物理法則では到底、説明できない力を彼らは使う。
その結果、大いなる利益を生むことになる。
伝道者は、今世界で最も売れている小説を売っているし、不燃者は、今世界で最も有名な動画配信者をしている。
かように、超越者達の才能は、世界に大いなる影響と利益をもたらす。
それを正しく使うなら、いい。問題はその才能を使って、悪事を働くこと。
分断者は後者だ。彼は裏の世界に生きる存在だ。
金をもらい、他者を暗殺することを生業にしてる。
21世紀、令和日本で、殺し屋なんて者が存在するのか?
……するのである。しかし現代日本において殺し屋とは、=超越者たちを指す。
現代科学では証明できない力を用いて人を殺す。
たとえば念動力で人を殺したとしても、それが証明されないのであれば、罪には問われない。
証明しようにもこの世界の常識では、異世界のスキルや魔法を、証明できないからだ。
ゆえに、悪い超越者たちはみな、殺し屋をやってる場合が多い。
さて。
「つーか……遠すぎだろ……電車こなさすぎ……」
分断者は松本駅を降りたあと、タクシーで、界人のいる家の近くまでやってきた。
「電車が全然通らないで、よくここの人たち暮らせてけるな……車か。車が必須なのか。ちくしょう」
分断者は仕事で界人に接触しようとしていた。
組織からの依頼は、【調停官】の殺害。
先日、組織から調停官をしてるラブ・マリィのアジトを発見したという情報が入ったのだ。
調停官。それは、異世界の力を持ちながら、超越者たちが悪さをしないよう見張る……警察みたいな存在。
この能力を悪さに使う組織からすれば、目障り極まりない存在だ。
分断者はマリィを暗殺するように依頼された。
「つーかマジで遠い……車も入ってこれないとか……どんだけ田舎なんだよ……」
分断者は現在、松本から北上したとこにある、別荘地帯へとやってきた。
その私有地である山のなかに、ラブ・マリィが住んでいるという。
そのとき、がさっ、と木々が揺れる。
とっさに分断者はポケットから手を出して構えをとる。
しかし……。
「きき……!」
「んだよ……サルかよ……」
長野では、山の方へ行くと普通にサルが歩いてる。
都市部に近くとも動物が出たりする。イノシシや熊がでたという例もあって普通に驚く。
「驚かせやがってよぉ……」
分断者はきれていた。
敵かと思って身構えたら動物だったからだ。
スッ……と彼は右手をポケットから出す。
手で……【ハサミ】を作る。人差し指と中指で、チョキの形を取る。そして……。
子供の遊びのように、手で作ったハサミを、ちょきん、と。
ドサッ……!
「おれさまを驚かせたてめえが悪いんだぜえ……」
首のないサルが、そこに転がっていた。
分断者。そのあだ名は、彼の持つ能力からつけられている。
超越者たちはみな、固有の能力を持っている。
分断者の場合は、視界に入ったものを、見えないハサミで切る能力だ。
恐ろしいのは、この見えないハサミはあらゆるものを切ってしまうところだ。
コンクリートだろうが、人間の首だろうが、どれだけ硬くても関係ない。
視界に入っていさえすれば、見えないハサミで切れる。まさに、最強といえる能力だ。
だからこそ、分断者に今回の仕事が回ってきたのだろう。 あいては【あの】、世界魔女だからだ。
数々の悪い超越者たちが、世界魔女によって逮捕、あるいは闇に葬られている。
そんな無敵の能力者を暗殺するのだ、強者が選ばれるのは当然と言えた。
「さて……あそこか」
ようやく、山の中に一軒の武家屋敷を見つける。
ここが、ラブ・マリィの住処だ。
「とっと殺してしまうかよぉ……」
屋敷の裏手にある、雑木林へと移動した。
少し離れた位置から、屋敷を俯瞰する。
すると庭に、男と女が出てきた。
「あの女がラブ・マリィか。ん……? なんか、やけに若いな。男の方は孫ってやつか」
まあいい、好都合だ。
この位置なら、分断者の力で、一気にどちらの首も取れる……。
分断者は手でハサミを作る、切断しようとした……そのときだ。
ズァアアアアアアアアアアアア……!
「…………………………は?」
彼の周りの雑木林が……一気に、枯れ果てたのである。
「なっ!? なんだこれは!?」
器用に、木々だけが枯れている。なんだ、何の力だ!?
攻撃を受けているのか!?
「はっ!?」
庭に立つ男。それが【こっちを見ている】。
まさか……! あの孫も超越者!?
しかも……こんな大きな山の木を、一本残らず枯れさせてしまうほど! 強い能力者だというのか!!!!
見えないハサミを最強と言っていた自分が、馬鹿みたいだ。
相手は……この山まるごと、木を殺せるほどの謎の力を使ってくるのだから!
「ひ、ぎ、あぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
分断者は恐怖する。
孫の、異次元の能力を。
彼はこう言っているのだ。
『殺そうと思えばいつでも殺せる。俺たちに近づくな』
……と。(※言ってない)。
「はぁ! はぁ……! だめだ! だめだ! あの調停官の孫! やばすぎる! 近づいたらだめだぁああああああああああああああああああ!」
分断者は涙を流しながら、情けなく逃げていく。
敵を察知する力、そして異次元の、謎の能力。
この日、組織のブラックリストに、新しい超越者の名前が載った。
【異次元者】。力の次元が違うところから、そう名付けられたのだ。
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