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05.有名作家が描くのを辞め、JKは家を出て、彼のもとへ

ここから短編の続きです。



 カイトが異世界の扉を使って、新しい人生をスタートさせた、一方その頃。

 まず、大手出版社である、タカナワ。その漫画編集部は、混乱をきたしていた。


「え!? 単行本が間に合わない!?」

「そんな! 今週分の原稿がまだ入稿されてないですって!?」


 カイトが辞めてまだ1週間程度しか経過していない。

 だというのに、職場は大騒ぎだ。


「どうなってるのよ!!!!」


 編集部長である、木曽川きそがわ真々子は頭を抱えていた。

 今まで現場がこんなにももたつくことはなかった。


 むしろ毎日スムーズに業務が回っていたはず。

 だというのに、この一週間で、あちこちでトラブルが発生するようになったのだ。


「部長……これどうすれば……?」


 部下が真々子のもとにやってきて尋ねてくる。

 びきっ、と眉間にしわが寄る。


「どうしてこんな簡単なことが、できないの!」

「だ、だって……今まで全部、飯山さんに押し付けてたから……」

「飯山君……」


 そう、誰に仕事を頼んでも、やり方がわかりません、と返ってくる。

 ではなぜか? と問いただすと皆が口をそろえて、飯山カイトがいないからと答えてきた。


「……確かに、彼がいたときのほうが、仕事が楽だったけど……」


 まさか、ここまで飯山以外のメンツが無能だとは思わなかった。

 今になって、手放したものの大きさを痛感させられる。


「…………」


 だが自分から追い出しておいて、現場が大変だから、今更戻って来いだなんて、プライドが許せない。

 

「そうよ。多少もたついてるのは、飯山君が急にいなくなったからだわ。みんながこの環境に慣れれば、きっと昔みたいに……」


 と、そのときである。


「失礼するっす」


 眼鏡をかけた、若い女がいた。

 18歳くらいで背が高い。


 胸は大きく、タンクトップにホットパンツという、実にラフな格好。

 買い物に出かけるような気安い恰好で、であるこの女は……。


「な、南木曽なぎそ先生!?!?」


 彼女は南木曽なぎそなぎ。

 大人気作品、【ハーレム系ギャルゲーの親友キャラに転生した】、略して【はーてん】を出版し、アニメ化、映画化までしてる、超大人気作家である。


 この出版社、タカナワの出版部門において、世界的大ヒット作品デジマスと並ぶ超人気作品である。


「ど、どうなさったのです、南木曽先生? 編集部に直接来るなんて、珍しいですね」


 相手は、あのはーてんの作者だ。

 今やデジマスに次ぐ超人気作品。漫画部門で第1位の売り上げを誇る作品の作者。

 絶対に、怒らせてはいけない相手だ。


「うち、辞めます」


 と、そう一言だけ言って、なぎは踵を返して去っていった。

 一瞬、何が起きたのか、真々子は理解できなかった。


 だが、なぎの一言、辞めます。

 それはつまり……。


「待って、待って待って待って!!!!!」


 真々子は慌ててなぎの後を追う。

 彼女の腕をつかんで引き留めた。


「待ってやめるって、どういうことですか!?」

「だって、カイトさんやめたんすよね?」

「え、ええ……」


 なぎの担当編集はカイトだ。

 彼女が新人だった頃から、ずっと彼は面倒を見てきたのである。


「てゆーか、あんたカイトさんをクビにしたんでしょ?」

「ど、どうしてそれを……」

「本人に直接聞いたっすよ。……あんな、すごく仕事ができて、素晴らしい人をクビにするなんて、どうかしてるっす」


 なぎが真々子に、そして編集部に向けるまなざしは、冷たかった。

 そこには編集部への不信感と敵意がありありと浮かんでいた。


「恩人であるカイトさんにひでーことする編集部に、金もうけさせるようなことさせたくねーっす。だから、もうここでは二度と描かないっす。じゃ」


 そう言ってなぎは真々子の手を払って、出て行こうとする。

 いけない、だ、だめだ! ひきとめないと!


 はーてんは、間違いなくタカナワが誇るコンテンツの一つだ。

 それを失うことがどれだけ、会社に、そして自分の人事に係わるか!


「待って! お願い! 書いてくれないと、あたしがクビになるかもしれないの!」

「は、知らねーっすよ。人のこと簡単にクビにしといて、よく言うっすね」


 なぎはもう振り返らない。


「まってよぉおおおおおおおおおお!」


 足にしがみつくが、げしっと払われる。


「別にうちが一人いなくなっても、他にもたくさん漫画家さんはいるっしょ? ならそのひとらに頑張ってもらってくださいっす。んじゃ」

「そ、そんな!」


 すたこらとなぎは去っていく。本当に、この編集部には何の未練もないようだ。

 カイトがいたから、描いていたという発言は、本当だったんだ……。


「編集長! これどうすれば……」「原稿が上がってこないんですけどどうしましょう……」


 積みあがる、雑務。回らない仕事。超大人気漫画家の喪失。

 それは全部、カイトをクビにしたことが原因、つまり、自業自得だったわけで……。


「あああ! もう! なんて、バカなことしちゃったのよぉおおおお!」


    ★


 さて真々子が後悔してる一方で、もう一人、後悔している人物がいた。


「れ、麗子れいこ……今、なんといったんだい?」


 男の名前は戸隠とがくし 零士。

 マンションをいくつも持ち、経営している、かなりの金持ちである。


 たとえば都内にある、超高層マンション【パレス戸隠とがくし】は、一階に大型ショッピングセンターがあり、その上には超有名人たちが住んでいる。

 パレス戸隠以外にもいくつもマンションを所有しており、カイトが住んでいたのはその一つ。


 戸隠は最愛の妻を失い、たった一人の娘を大事に大事に育てている。


 それが、娘の麗子だ。

 鴉の濡れ羽のような美しい長い髪。


 整った顔つきに、抜群のプロポーション。

 通行人が10人いれば10人が振り返るほどの、超絶美人だ。


 彼女が通っている学園で行われたミスコンで優勝したことがある。

 そんなとても美人な戸隠麗子は、大変ご立腹であった。


「……お父さん! どうして、飯山いいやまさんをマンションから追い出したの!?」


 物静かな娘が、ここまで感情をむき出しにしているのは、初めてのことだった。

 戸隠は戸惑いながらも、答える。


「し、しかし麗子。あの男は私の大事な麗子の尻を触ろうとして……」

「だから! 違うって言ったじゃない! 飯山さんはわたしのお尻を触ろうとした、変態から守ってくれたの! 何回も説明したじゃない! 勝手にあの人を悪者にしたてあげて、追放みたいなマネするなんて!」


 麗子は大粒の涙を流しながら声を荒らげる。

 今まで、親に一度も反抗したことない子が、本気で嘆き悲しんでいた。


 だが、だが。


「それは、脅されてたんじゃないのか?」

「……何言ってるの?」


 地獄の底から這い出てくるような、おどろおどろしい声に、思わず戸隠は気おされてしまう。


「わ、私の気持ちもわかってくれ麗子。おまえは、大事な娘なんだ。そんな娘を傷つけられて、腹を立てない親などいないだろう?」


 麗子の目からすっ、と光が消える。


「……そう。お父さんは、まだ飯山さんを悪者にしたいんだ」


 麗子は、ごみを見るような目を親に向ける。


「わかりました」

「そ、そうか! わかってくれたか!」

「ええ」


 ほっ、と戸隠は安堵の息をつく。


 娘がわかってくれたようだ。親の心遣いを。

 変な男に人生をゆがめてほしくないという思いを。


 ……しかし、翌日。


「麗子! どこへ行ったのだ、麗子!?」


 娘の麗子は、どこを探してもいなかった。

 彼女の部屋には1枚の手紙が置いてあった。


【あの人のとこへ行きます。探さないでください】


 ……あの人とはつまり、カイトのこと。

 そう、このJKも、そして人気漫画家も、カイトのことを好ましく思っており……。


 だからこそ、いなくなった彼のもとへ、ふたりは向かったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] JKは知人なの?痴漢の時の一期一会で、相手の住所調べて突撃する行動力やばい
[一言] いちいちJKって書くのやめてくれ、なんかこう、イヤだ。
[気になる点] ワイン兄貴の世界と同じ世界線?
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