240.わかるってばよ
トゥアハーデちゃんは、ネット……というかスマホに興味津々らしい。
パンケーキを食べ終えると――
「うぁ! すご……へえ~……」
ごろんと横になり、スマホを凝視し始めた。
どうやら電子書籍で漫画を読んでいるらしい。
「わ……すご……へえ……ふぅん……」
穴が開きそうなほど画面を見つめ、漫画という文化をあっという間に吸収して楽しんでいる。
本来、天使は人間の文化なんて知らないはずなのに……。
「おもろ……。あの、続きはないのですか?」
「あるよ。ほら」
俺は漫画の続きを表示して渡す。やり方を教えると、トゥアハーデちゃんはふんふんとうなずいた。
そして再びごろんと横になり、漫画を読みながら――ぽりぽり、と自分の腹をかき始めた。
「…………なんというか」
天使らしさのかけらもない。
『ふがふが……堕天使ってやつだなこりゃ……』
フェルがパンケーキをむさぼりながら、にやりと笑う。
『主も悪よのぉ』
テレビで見たことを真似しているらしい。現代に染まりきったフェンリルめ。
『自分を襲ってきた天使を堕落させ、己のものにすることで危機を回避するとはな』
「別にそういう意図はねえよ……ただ、なんとなくかわいそうって思っただけだ。俺もまた、社畜だったからさ」
俺はかつて大手出版社で編集者として働いていた。
毎日上からの命令に従い、つらい仕事を押しつけられる日々。だから……わかるんだよ、トゥアハーデちゃんのつらさが。