168.奴隷、ゲットだぜ(いらん)
俺、界人とフェンリルのフェルは現実でスローライフを送るはずだった。
しかしダムから飛び降りようとしていた女を助けてしまう。
「神さま……♡ 助けてくださり、ありがとうございました……♡」
ダムの頂上にて。
女が俺の前に跪いて、熱烈な視線を送ってくる……。
ひいぃ……また神扱いぃ……。
面倒ごと嫌いなんだよ俺……よし!
「な、なんのことかなぁ。見間違いじゃあないかなぁ?」
「……そんなことはありませんっ。あなたは自殺するわたしを助けてくださいました!」
「いやそれ、たぶんほらあれ、夢だよ夢! あんたは身投げする前に気絶し、ダム側じゃなくて、こっちの欄干がわに落ちてきたんだよ。うんうん!」
ってことでごまかそうとしたのだが……。
『それはちと苦しいのではないか?』
「……すごい! しゃべる大きな神獣を連れてなさっている! やはりあなた様は神です!」
おいいいいいいいいいいいいい。
フェルぅううううううううう!
『おっと、こっちの世界では獣はしゃべらないのだったなぁ。参ったなぁ、神の使徒扱いだよ』
こ、こいつぅ……わざとこの女の前でしゃべりよって!
「……ありがとうございます、神さま……。あなた様はなんて慈悲深いおかたなのでしょう……♡ たすけていただいたこのご恩、忘れません。わたしの一生を、わたしの全てを懸けて、ご奉仕させていただきます」
ご、ご奉仕……。
『良かったではないか。見たところ、この女若いし、さらにとんでもない美女ではないか』
……フェルの言うとおり、確かにこの助けた女は、綺麗だ。
なぎ以上に爆乳。ウェーブかかった黒髪は艶やかだ。
肌は真っ白、化粧してないのに、赤みがかった唇は色っぽい。
垂れ目で、ちょいとアンニュイな雰囲気と、その爆乳ボディからは、隠しきれない色気がムンムンと立ち上っている。
正直、めちゃくちゃエロい美女だ……が。
「くらえ必殺! 【記憶消去】!」
俺は美女の額に指をトンッ、とする。
記憶消去。ばーさんのとこで習った無属性魔法だ。
文字通り対象の記憶を消去する魔法である。
『あー、もったいなーい。いいのか?』
「いいんだよ」
『性奴隷にはもってこいの女ではないか』
「必要ないっつーの……」
さて、この女を街に帰すか……。
「神さま? どうなさったのですか」
「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!? なんで、記憶消したのに!」
どうなってやがる!?
するとフェルは女のもとに鼻を近づけて『ははん』と笑う。
『我が主よ。こやつも同郷だ』
「ど、同郷……って、まさか」
『能力者だな。練能力者』
練能力者とは、逆異世界転生者のこと。
異世界から現実へ転生してきたものは、その体に特殊能力を宿していることが多い。
この女も練能力者なのか……!
「……すごいです。神さまは記憶まで消すことができるのですね!」
「え、ええとぉ……」
「……ああ、神さま♡ 素敵、すごいです……♡ かっこぃい……♡」
女がしなだれかかってくるぅ!
やめてえ……! 神扱いする人はもういらんのよぉ!!!!
『女、神は大層喜んでおられるぞ。良かったなぁ』
「フェルぅううううううううう!」
てめえあとで覚えてけよ!
すると女は嬉しそうに笑うと、こうなのった。
「……名乗らず申し訳ありません。わたしは豊野悠乃と申します」
聞いてないし……。
『む? 豊野……悠乃……《ゆの》? YUNO……く、くくく! くははあ! すごいなぁ主ぃ!』
え、なに?
フェルさんが笑ってる。怖い! こいつが笑うとき、たいていろくなことにならないんだもん!
「え、なんだよ」
『我が主はもうちょっと、テレビをみたほうがいいぞ。女優とか詳しくないだろ』
「まあな。で、なに? この豊野って女何者なの?」
『さぁ~?』
この……駄犬めぇ……!(※神獣です)