167.ダム、だいぶ
松本駅前をブラブラしたあと、俺はフェルのお散歩がてら、上高地へとやってきた。
松本から西へずっと行った先にある、風光明媚な場所だ。まあようするに山の奥だ。
梓川をずっと西へたどっていくと、山間にあるダムへとたどり着く。
大量の水が下へとドドドドド……と落ちていく様を、ぼけーっと見つめていた。
「はー……スローライフぅ~……」
『暇をもてあましてるな、主よ』
桟に体をあずけていると、隣でうずくまってるフェルが尋ねてくる。
「持て余してない。暇をかみしめてるのだよ」
最近、異世界でも現実でも、面倒なことになってるからな。
異世界では勇者につきまとわれ賢者扱い、こっちじゃ長野神ですぜ?
やってられっかっての。
「俺はこういう、誰も居ないところで、のんびり過ごしたいんだよ」
『それは無理だなぁ……くくく』
「え? なんでだよ?」
そのときだった。
俺はふと、ちょっと離れた所に、誰かがいることに気づいた。
何故今気づいたのかって?
桟のうえに、その人が立ったからだ。
「え? え? ちょっと……」
その人は桟から、ダムへ向かって……飛び降りたのだ!
「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
面倒ごとに巻き込まれたくない俺だからって、しかし、人が死ぬところを、ほっとくことなんてできない。
いくら相手が俺といっさい関わりない人間だろうとだ!
その人はダムの上から下へと真っ逆さまへ落ちていく。
結構な高さがあるため、普通に死ねる。
俺は躊躇せず飛び込む。
うわ、ったっけえ……けど、まあいつもフェルの背中に乗ってとんでるしな。
それにスキルのおかげで恐怖心はほぼ感じない。
俺は冷静に、落ちていくその人を空中でキャッチ。
そして、飛翔の魔法を使って、ダムのてっぺんにいる、フェルのもとへと戻ってきた。
『見事な救出劇だったなぁ。さすが我が主ぃ』
にまにま笑いながら賞賛してくるフェル。
こいつ自分も飛べるくせに、いっさい動こうとしなかったな。ええい、怠け者め。
『主ほどの高スペック男子なら、我の助けなど不要かとおもってな』
「いけしゃあしゃあと……」
俺は助けた人をゆっくり、床に下ろす。
『なかなかの美人ではないか。スタイルもいいし。ふむ……性奴隷にするのか?』
なるほど、言われてみれば、今助けたこの女、いい体つきしてる。
年齢は20~30くらいだろうか。胸もでかい。
髪の毛は長く、化粧っ気はないのに、普通に美人だ。
なんでダムに飛び込んで死のうとしたんだろう……? こんな美人なら、人生困らないだろうにな。
「って、性奴隷になんてしねえよ。ったく……どうするかなこの人……」
この人さっきから目ぇ覚まさない。
助けるときになんか不備があったか? 頭打ったとか。そんなことは無いと思うが……。
「念のため、小回復」
治癒魔法を……どわっ!
びっがあああああああああああああああああああああああああああ!
『主よ、なんだその高出力の魔法は?』
「し、しらねえ……なんか、普通に小回復しようとしたら、こうなったんだが……」
『なるほど……くくく、長野神の面目躍如ってところか』
程なくして、光はやんだ
すると、女は目を覚ます。
「ここは?」
「目覚めたか。あんた、飛び降りようとしてたんだぜ?」
すると女は目を大きく見開く。
「聞こえ………る! 私……あなたの声、聞こえる……」
「え? ああ……それが?」
じわ……と女が涙をためると、俺に抱きついてきた。
胸がぐんにょりと当たる。で、でかあ……なぎより大きくて、なんだこれスライムみたい……っていかんいかん。
「ありがとうございます! 長野神さま!」
フェええ……? なんで、長野神だって、知ってるのぉきみぃ?