162.止めどなく進化していく神
カイトが練能力者たちをぶっ倒したあと。
公安所属の刑事、贄川 無一郎は都庁に帰ってきた。
「ふぅ……」
「お疲れさん」
「見晴者……」
これまた公安所属の潜入捜査官、見晴者(※コードネーム)が、マグカップを両手に持って現れる。
片方を無一郎に渡してきた。
「ありがとう」
「おう。しっかし異次元者、やべえな今回も」
「ああ、とんでもないよ……まさか、自動で敵の練能力者を撃退してしまうなんてね」
遠くを見る能力を持った見晴者は、先ほどカイトがやったことを把握していた。
「異次元者はしばらく異世界に行ってたみたいだが、帰ってきたみてえだな。んで、帰ってきて早々、殺し屋に命を狙われたと」
「やれやれ……バカばかりだ。まだ界人君に勝てると思ってるバカがいるとは」
カイトは現実でもかなりの回数やらかしてる。
そのやらかしから、彼が尋常ならざる力を持った存在だと知れ渡ってるはずなのだが……。
一定数カイトを目障りに思う連中がいるらしく、殺し屋が送り込まれた次第だ。
「今回もなかなか手練れの殺し屋が送り込まれたみたいだぜ? ま、瞬殺だったけどな」
「しかし界人君、いったい何をしたんだ?」
「なにも、してないよ」
「いや……なにもしてないってことはないだろう。何かこう、遠隔で魔法を発動させたんじゃ?」
「いや、何も。マジで何もしてねえんだよ。ただ、手を払った。その瞬間、殺し屋たちはやられた」
ぽかん……とする無一郎。
「す、スキルか魔法か?」
「いや、違う。そんなちゃちな話じゃあない」
「じゃあ何をしたんだよ!? 彼は!」
「わからん。その一言に限る」
愕然とする無一郎。
公安は練能力者、つまり、逆異世界転生者を管理する立場にある。
現代で発生する不可思議な現象にたいしては、一般人より理解が深いはずだ。
そんな公安ですら、カイトの使った力については、分析できないでいるようだ。
「これはあたしの仮説として聞いてほしいんだが……異次元者は天罰をくだせるんじゃあないかな」
「……………………天罰?」
「そ。天罰。悪いことをしたやつを捕捉し、そいつに罰を与える力があるんじゃあねえのかなって」
……なんだそれは、と無一郎は愕然とする。
「まったくもって……科学的じゃあないなそれ」
「そのとおり。でも天罰。そう表現する以外に、異次元者が殺し屋どもを気絶させた力の正体がわからねえんだわ」
魔法やスキルを使えば、その痕跡は残る(魔力とか)。
しかし倒れてる殺し屋たちからは、痕跡を感知できなかったのだ。
「異次元者……飯山界人は悪意を感知し、天罰を下せる力が備わってる、って考える方が一番筋が通るかなってよ」
「……それは、もはや神じゃあないか」
「うん。そーだよ。長野神。あながち……笑い事じゃあなくなってきたわけだ」
テレビでは長野県に出没する神、長野神として特集が組まれている。
人々はネットが作り上げた創作物だと思ってるようだ。
……しかし天罰まで下せるようになった。
もはや、本物の神としかいいようがない。
「界人君……どこまで進化するんだい、君は」
ちなみにそんな事態になってることなんて、カイトはまったく気づいていないのだった。




