15.女騎士、謎の賢者をしゅきしゅき♡になる
飯山界人が女騎士ハウメアを助けてから、数時間後のこと……。
「ハッ!? こ、ここは……」
「団長!」「気づきましたか!」
ハウメアを取り囲むように部下達が座っている。皆一様に安堵の表情を浮かべていた。
だれもが彼女の無事を喜び純粋に涙を流している。ハウメアの人徳がうかがえる一幕だ。
……しかし、当の本人は自分が助かったことに対して戸惑いを覚えている。
「なぜ……私は生きてるのだ? 大鬼の王に、食われて……いや……」
気を失う前のことをぼんやりと彼女は思い出す。
あの恐るべき化け物に殺されそうになったとき、どこからか、赤いフードをなびかせながら、一人の男が現れた。
そして恐ろしい威力の魔法(※実際は火球)で、敵を業火でなぎ払った。
凄まじい強さ。あんな規格外の魔法力を持った人間が、この世に存在するわけがない……。
だが自分は生きている。ということは、大鬼王を倒した人物は実在しているわけで……。
「は! そ、そうだ! なぜ私はここにいる!? 森で倒れたはずだ!」
部下の一人が挙手して答える。
「自分が発見しました、村の入口で」
「入口……だと? で、では……誰が村まで?」
「村長によりますと、赤いローブを着た、黒髪の男だったそうです」
「! ……そ、そうか……」
やはり実在したのだ。あの、尋常ならざる強さを持った男は……。
とくんっ……と胸が高鳴る。自分は誰より、男よりも強いと思っていた。
自分を凌駕する男は、この世でただ一人、崇拝するレオン国王陛下のみだと思っていた。
とくん……とまた胸が高鳴る。強い男に、助けられた。いつも誰かを助ける側の人間だった自分が。
とくん、とくん……と胸が早鐘のように高鳴っていく。子宮がうずく。ああ……。
「しゅき……♡」
「「「え?」」」
部下達は、最初聞き間違いだと思った。ハウメアは、どちらかと言えば男勝りな方だ。
否、男よりも厳しく凜々しいかただ。
彼らはみなハウメアを一人の剣士として尊敬していた。全員が彼女に惚れているのだが、彼女は武芸に生きると公言してる。
みな、彼女を異性として愛する気持ちをぐっと抑えてきた。
しかし……。
「しゅき……♡ しゅき……♡ ああ……♡ あのお方……素敵……♡ かぁっこいぃ~……♡」
今のハウメアの顔は、完全に恋する乙女のそれとなっていた。
凜々しい顔つきはでろでろにとろけていた。
誰もが畏れる王国騎士団長を、ただの恋する女に変えてしまった……。
恐るべし、謎のフードの男(※カイト)。
部下達は見たことのないその彼に対して、畏敬の念を送る。
カイトの存在を疑うことはしなかった。ハウメアを信頼しているので、彼女がいるといったら実在するのだ。
また部下の何人かは、空を飛ぶ赤いローブの男を実際に見かけたこともあって、その存在は疑う余地のないものとなっていた。
「しかし……何なのでしょうね、その赤い魔法使い様は?」
「バカ言え、ただの魔法使いじゃないぞ。空を飛んでいた、あれは失われし【伝説の古代魔法】のひとつ、【飛翔】だ」
……そう。カイトは知らない、実は無属性魔法のいくつかは、使い手がとだえ【伝説の魔法】扱いされていることに。
彼は気軽に空を飛んでいるが、飛翔の魔法は古代魔法に分類されるのだ。
「風で浮いてたんじゃないのか?」
「いや、自在に空を駆けていた。飛翔で間違いない」
「しかしそんな凄い魔法使いなら、もう賢者じゃないか」
賢者。それは魔法を極めしものに贈られる称号。
この世界での賢者とは、神域の八賢者のこと。
カイトの祖母もこの一人だ。
「伝説の賢者様がなぜこんな辺境に?」
「わからん……」
部下達の間でも、謎の賢者の話題で持ちきりだった。
賢者もまた伝説の存在。おいそれと現世に姿を見せない。
そんな中で現れた、赤の賢者……否。
「ああ、紅の賢者様ぁ~……しゅき~……♡ しゅきぃ~……♡」
ハウメアはもう頭お花畑状態になってしまっていた。
それほどまでにカイトに一発で、惚れてしまったのだろう。
「紅の賢者様か……」「どんな人だろうか」「ハウメア様を堕としたのだ、相当な御仁なのだろう」「どんな顔してるんだろうか?」
はっ、とハウメアが正気に戻る。
「こ、こうしてはいられない! すぐに陛下へ報告に、王都に戻るぞ!」
「「「ハッ……!」」」
ハウメアは急いで準備し、王都に居るレオン国王の下へ向かう。
その道すがら……。
「えへへ~♡」
「ハウメア様、なんです、そのマントは?」
馬車に乗るハウメアの、副官がそう訊ねる。
彼女の手にはカイトが残したマント。
「これね~♡ 紅の賢者さまが私の体にかけてくれてたんだって~♡ えへへ~……♡ やさしぃ~……♡ しゅき~♡」
くんくん、とハウメアがマントの匂いを嗅いで、とろんとした表情となる。
「ああ……♡ いいにおい~……♡ 強いオスのかおりだ~……♡ 腰がくだけちゃうぉ~……♡」
はぁ……と副官がため息をつく。どんだけぞっこんなんだよ、と突っ込む一方で、ふと。
「ハウメア様。そのマントお貸しいただけないですか?」
「やっ……!」
や……って、子供かよ。好きすぎて幼児退行を起こしてるのか? とあきれつつ、真面目な話をする。
「それが魔道具である可能性があります」
「! そうなのか。見てくれ」
副官は袋からルーペのような物を取り出す。
【真実の目】。これは鑑定に用いるアイテムだ。道具に秘められた情報を読み取ることができる。
ようは、鑑定スキルの付与されたアイテムである。
副官がマントを、真実の目で見る。
「……! これは……」
「どうした?」
「……Bランク以上の、アイテムです」
「な!? なんだって!?」
あり得ない、と驚愕するハウメア。
「真実の目はBまでしか測定できません。おそらくは、Aか、それ以上のランクかと……」
「そんな、この世界で現存するアイテムの最高ランクは、Bだぞ? Bランクアイテムや武具を持ってるだけで、世界情勢がひっくり返るほどなのに……」
それ以上のアイテムを、カイトが残していった。
カイトからすれば、祖母の家にあったマントを、適当にあげただけだったのだが。
「これは……国宝級、下手したら伝説級のアイテムとなります」
「しゅ、しゅ、しゅごぃ~♡ さすが紅の賢者さまぁ~♡ はぁ~しゅきしゅき~♡」
頭お花畑なハウメアをよそに、副官は戦慄する。
「A以上のアイテムを、ほいと渡してしまうなんて、どういう意図なんだ? しかも簡単に手放したってことはそれ以上のアイテムを複数持ち歩いてるってことか? だとしたら彼の存在は、世界の法則を変えるほどの、超重要人物かも知れない……」
「しゅき~♡」
……こうしてカイトの存在は、突如出現した、凄まじい魔法使い【紅の賢者】として、世に知られることになったのだった。
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