13.黒竜王の討伐、その影響
まれびと飯山界人が、現実世界に居る、一方その頃。
異世界では、とある事案が波紋を産んでいた。
そこは異世界【ジンナ】。
ジンナには六大大陸と呼ばれる、人あるいは亜人と呼ばれる、知性在りし生命体が暮らす大きな大陸があった。
ジンナ北部にある王国、【ゲータ・ニィガ】。
そこに住まう王……レオン=フォン=ゲータ=ニィガは、部下からの報告に目を剥いていた。
「黒竜王が討伐された……だと……?」
レオンは御年70。モンスターが跋扈し、食糧事情が乏しいこの異世界では、人がかなり早く死ぬ。そんななかでは、かなりの高齢と言える。
獅子王と呼ばれし賢君、それがレオン。
そんな彼が、部下から聞いた話によると、奈落の森をねじろにしていた化け物、黒竜王が討伐されたとのこと。
「はい、レオン陛下」
彼の前に跪くのは、見事な鎧に身を包んだ女騎士ハウメア。
歳は20。若くして騎士団長に上り詰めた才女だ。
ハウメアは国王の命令で、奈落の森の調査へと向かった。
しかし黒竜王の姿は見当たらなかったという。
「ふむ……もしや、【まれびと】?」
「陛下?」
「いや、すまぬ。おそらく黒竜王は自死ではなく、誰かに倒されたのであろう」
「なっ!? ば、馬鹿な……ありえないです!」
ハウメアは即座に否定してしまったが、慌てて頭を下げる。
王に逆らうつもりはないのだが、あまりに現実離れしていたからだ。
しかし王は部下の態度に笑って許す。
「王国最強の魔法使いである、レオン様のお力を以ってしても、黒竜王は撃退することしかできなかったのです。その竜を倒すなんて、不可能です……」
「私が現役の頃ならいざしらず、今はジジイだ。力も衰えた」
……衰えたとはいえ、その魔法の腕は王国、いや、六大陸で一番といえる。
そんな彼でも、王国を襲った黒竜王を討伐できなかったのだ。
ハウメアは国王を尊敬している。彼こそが世界最強の魔法の使い手であると。
……そんな彼を超える人物が、いるわけがない。
「ハウメアよ、私のわがままを聞いてもらえるだろうか」
「ハッ! なんなりと!」
王の言うことなら、たとえ火の中に飛び込めと言われても飛び込む。そんな覚悟が彼女にはある。
なぜなら彼女は国王本人に、一度命を救われたことがあるからだ。
「もう一度、奈落の森へ行ってもらえぬだろうか」
「それはかまいませんが……いったいなぜ?」
「そこにいるだろう、黒竜王を討伐してくださったおかたを、連れてきてほしいのだ」
「……………………」
やはり、王はその【竜王を倒した人物がいる】と確信しているようだ。
いるわけがない、そんなやつが。
だが王の言葉は、ハウメアにとって絶対である。彼が過ちを犯すわけがないのだ。
世界最高の魔法使いで、賢君なのだから。
「かしこまりました。それでは、森へ行き、その竜王を倒した人物を探して参ります」
「頼んだぞ。森の近くの領地、ケミスト領の領主には話を通しておく。領地内にあるアインの村を拠点としなさい」
「ハッ……!」
ハウメアは一礼すると、レオン陛下のもとを去る。
だがどうしても……どうしても、信じられなかった。
ハウメアは謁見の間を出た後、眉間にしわを寄せながら、かつかつかつ! と不機嫌そうに歩きながらつぶやく。
「レオン陛下を上回る存在がいるわけない! 竜王が死んだのも、きっと陛下が負わせた致命傷が、あとからじわじわ効いてきて死んだに違いない!」
……だが、国王の予測は正しかった。
奈落の森、そこは、恐ろしいモンスターの跋扈する人外の魔境。
世界四大秘境と呼ばれる、人間が本来立ち入ることのできない場所。
そんな場所に……カイトは転移したのだ。
彼の祖母、ラヴ・マリィの洋館は、奈落の森のど真ん中に存在する。
そして黒竜王を討伐したのは、ほかでもない、カイトなのだ。
★
そんなことがあり、ハウメアは部下を引き連れて、今一度奈落の森へと向かう。
ハウメアは十全の準備を整えて森へと乗り込んだ。
しかし……。
「はあ……はあ……」
「もう……だめです、リーダー……一旦撤退しましょう……」
部下達は消耗しきっていた。
奈落の森。そこに出るモンスターは、どれもSランクを超える化け物たち。
ただのスライムですら、高いランクのモンスターだったりする。
また、内部は迷路のようになって、魔道具がなければ完全に迷い込んでしまうところだ。
レオン陛下から賜った、特別な魔道具があるから、自分たちは位置を見失わないでいる。
彼らは、大鬼の群れと遭遇し、戦闘になったのだ。
部下達は壊滅寸前まで追い込まれていた。
「……おまえたちは一度下がれ」
「し、しかし隊長は?」
「私は、時間を稼ぐ」
「しかし!」
「これは命令だ。おまえ達は消耗しきっている。このままでは足手まといになる。一旦下がれ」
部下達は迷ったものの、彼女を一人残して去る。
ハウメアは、部下を生かすために、逃がしたのだと。
「はあ……!」
ハウメアは魔力で体を強化し、大鬼を一刀両断する。
凄まじい剣の冴えだ。さすがは王国最強の剣士だ。しかし……。
「なっ!? ば、馬鹿な……大鬼キング……だと!?」
森の奥から現れたのは、大鬼よりもさらに体の大きな鬼……彼らの王。
ガタガタ……とハウメアの体が震える。
大鬼との連戦で完全に体力が削られている。
そんななかで、大鬼を凌駕する存在との戦闘なんて……。
「…………」
ハウメアはレオンから賜った、魔道具を手にする。
転移結晶。それは、特定の場所へ一瞬で転移するというアイテム。
賢君レオンは、部下を無駄に殺すようなまねはしない。ちゃんと逃げるための道具を渡しているのだ。
しかし……。
「……ここで逃げれば、森の外にいる、村人達を襲うかもしれない」
自分が逃げれば、己の命は助かるかも知れない。だがその後、別の誰かを襲うかも知れない。
そんなのは、いやだ。
「私は……戦う! ここで、うぉおおおおおおおおおおお!」
ハウメアは大上段からの一撃を大鬼王に食らわせる。
ぱきぃいいん!
「剣が……! ぐあああ!」
敵の腕に剣は当たったが、刃が粉々に砕けてしまった。
カウンターとして、蹴りを食らう。
ハウメアは血を吐いて倒れる。
手から転移結晶が転がって、遠くに落ちている。
ばきん! と大鬼の王がそれを踏み潰し、にぃ……と笑う。
その下卑た笑みから、目の前の女を犯そうという、浅ましい思いが伝わってきた。
「くっ……! 殺せ!」
大鬼王が手を伸ばした、そのときだ。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
「!? なんだ……この、火力は……?」
突如として飛来した炎により、大鬼王は一撃で灰となった。
呆然と見やるその場に、一人の男が現れる。
黒い髪に、赤いローブを纏っている。
「あなたは……いったい……?」
「俺は……って、おい! 大丈夫か!」
ハウメアは体力の限界を迎えて気絶したのだった。
……大鬼王を一撃で倒した人物。
それこそが、彼女、そして国王が探している人物……カイトなのであった。
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