126.温度差
……さて。
イージスの暴走が収まったのは、あれから二日後。
世界扉ごしに、エルフ姉妹が対面する。
「「…………」」
俺の奴隷、イージスは、完全に無言だ。
一方で、現実側の練能力者、アーニャもまた沈黙を貫いている。
お、重い……。
まあ気持ちはわかる。
尊敬する賢い姉が、あんなセクモンになってりゃなあ……。
「えっと……状況を一応説明するとだな。俺は世界扉を使ってこうして、異世界を行き来できる。その過程で、奴隷墜ちしたイージスを成り行きでゲット。以後、うちの屋敷を管理してもらってんだ……」
「…………」
アーニャが困惑してる。
一方で、姉であるイージスも尋ねる。
「フォージア。おまえ、本当なのか? フォージアなのか?」
どうやらアーニャは、異世界ではフォージアって名前らしい。
名前がたくさんありすぎて、覚えきれんぞ……。
「はい……。あなたは、イージス姉様……なのですか?」
アーニャ視点では、姉は変わらない姿で居るはず。
しかし……しかしなぁ。
あんなセクモンっぷりをさらしたら、そりゃ本物かって疑いたくなるよな。
「うむ。そうじゃ……フォージア、か。おお、懐かしいの」
か、軽……?
え、死んだはずの妹と再会して、この軽さなの?
「もうちょっと無いのかよイージス」
「む? 無いのかよとは?」
「いや……おお! 妹よ! ひし! みたいな」
もうちょっと感動的な再会があるのだと思ったんだが。
しかしなんだかイージスはドライというか、あんまり感動していない。
「エルフじゃからな」
「エルフ……だから?」
「うむ。わしらエルフは長寿じゃ。感性で言えば、どちらかと人間よりも樹木や石に近い」
樹木や石……か。
「生きている以上死ぬのは必定じゃからな」
そうか……。
長く生きすぎてて、いろんな感覚が人間と違いすぎるのだ。
生き物は死ぬ。
死ぬのは当たり前。
だから妹が死んだのも、死として受け入れている……と。
「姉様……」
一方でアーニャ(妹)は困惑していた。
俺と同じで、もうちょっと姉との感動の再会を期待していたのだろう。
「で、ですが……会えて良かったです。姉様、再び、あなた様と暮らしとうございます!」
そういやアーニャさんは家に帰りたがっていたな。
めちゃくちゃ。
それは姉……つまり家族と会いたかったからだろう。
「それはおすすめせんのじゃ」
「な!?」
な、んだって……?
どういうことだ!
「だって……フォージア。ぬしが死んで、すでに2000年が経過しているのだぞ?」
「にぃ……!?」
に、二千だと……!?
いや……あり得る……のか?
エルフは長命だしな……。
「わしらの祖国はとうの昔に滅びた。同胞達も既に死んでいる。こちらの世界に帰ってきても、ぬしが求める、故郷はもうないぞ?」
たじろぐ、アーニャ(フォージア)。
2000年経ってりゃそりゃいろんなものも無くなったり変わったりしてるだろう。
「でも……でも! 姉様がおります! 姉様がいればそれで! ともにその世界で生きていきましょう! もしくは、こちらの世界で!」
「うーむ……」
イージスは少し考えてる。
え、考えるほどのことか?
「カイトよ。少し気になっておるのじゃが、世界扉の通行権限についてじゃ」
「は……? なにそれ?」
「この扉をくぐって、あちらとこちらの世界を自由に行き来できる権限のことじゃ」
いや、それって……。
「別に俺がいれば、自由に行き来できるんじゃあねえの?」
「いや……あくまでカイト、それができるのはおぬしだけじゃ」
は……?
「あれ……なぎが前にそっち行ったことなかったか?」
「それなのじゃが、マリィちゃんに聞いたのだが……」
マリィちゃんとは、俺のばあさんのことだ。
「本来、カイトひとりしか行き来できないらしいのじゃ」
「でも、なぎは? それにフェリも?」
「女の場合は、カイトの側にいる、という条件がつくらしいぞ」
なるほど……。
前になぎがこっち来たとき、俺も一緒だったな。
「裏を返すと、女を異世界に送り届けたあと、カイトが現実に戻ると、同じく女も現実に戻る。しかも、聖域の外にはでれんそうじゃ」
「! じゃあ……これても屋敷の中まで……ってことか」
俺以外だと、異世界を簡単に行き来できないようだな。
現実の人間が異世界へ行くためには、俺がいる。
「フェリは?」
「そこは……わからん」
「おい」
「マリィちゃんがいうには、神的な力がうんぬんといっていたのじゃ」
フェリは例外なんだな。
あくまで人間が、さっきのルールに適用されるのだろう。
しかし……マジか。
色々大変なんだなぁ。
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