123.帰りたい人
「すみませんでした……」
全裸女こと、アーニャは俺の前で土下座してきた。
場所は、現実にあるばーさんの屋敷。
その客間にて。
アーニャはJKなぎから、スウェットを借りている。
アーニャ・プリセツキさん。
結構な美人さんだ。ロシア人だろうか。
髪の毛が淡い色をしている。
そんで、背が高くて、スタイルが良い。
モデルかと思ったんだが……。
どうやら、練能力者(※逆異世界転生者)らしい。
「はぁ……。まあ、お酒の飲み過ぎには気をつけてな」
申し訳ないって、多分全裸で、人の家の屋敷に入ってきたことだろう。
そりゃ謝るよな。
しかしアーニャはポカンとした顔になる。
え、なに?
「い、いや……確かにそっちもなんだが……もう一つのほうというか」
「何かしたっけ?」
「…………」
アーニャは数刻の逡巡を見せたあとに言う。
「実は……私は、あなたの命を狙っていた……殺し屋なのです」
「……………………はぁ?」
殺し屋?
ああ……殺し屋……ふーん。
「な、なんでそうも平然となさってるのですか?」
「え、だって別に、命狙われただけでしょ?」
実害を受けたわけじゃないし。
てゆーか、まじで命狙ってきたって証拠、どこにもないしな。
単に酒飲みすぎて、ハイになって、全裸になって倒れただけの人の可能性もあるし。
「は……はは……あはははははは!」
アーニャさんがまるで、壊れたオモチャのように笑い出す。
え、なに……?
こわぁ……。
「これは勝てない! 勝てるわけが無い! 次元が違いすぎる……! 完敗だぁ……!」
彼女が大の字になって、倒れる。
え、ええー……なにこいつ、こわ……。
やっぱり酔っ払いだろ……。
自分を殺し屋と思い込んでる。
「あはは……イージス姉様……私はもうおしまいです……」
「え、イージス?」
なんで俺の奴隷の名前を知ってるのだろうか?
「姉様……死んだらあなたのいる世界に、帰れるでしょうか……?」
「世界……?」
ふむ……ちょっと気になったので聞いてみる。
「なあ、おまえ」
「私は今からこの神の怒りに触れた制裁を……」
「おーい、聞いてくれ~……」
あかん、完全に一人の世界に入ってる。
ふぅむ……。
『主よ、どうする? この女……おそらくイージスの関係者では?』
「だろうな。練能力者ってことは、元は向こうの世界の人だもんな」
そんな女が、イージスに会いたがっている。
しかも姉とか言ってるしな。
涙を流してるアーニャを見ていると……なんだか、かわいそうに思えてきた。
そのときである。
「界人君! ぶじかいっ!」
すぱんっ! とドアが開いて……。
刑事の、贄川 無一郎がやってきた。
え、なんで?
俺まだ警察に通報してねえぞ?
「アーニャ・プリセツキ! 貴様を、殺人未遂で逮ほ……ほげぇえええええええええええええええええええ!」
無一郎が吹っ飛んでいく。
庭でゴロゴロ……! と転がったあとに、倒れる。
あれ、俺何もしてないんだが?
「ど、どぼじで……?」
「どうしてじゃねえよ。不法侵入だろ」
あ、そうか。
刑事が勝手に入ってきて、アーニャを逮捕しようとしてきた。
それが、ムカッときた。
で、勝手に風の魔法が発動したわけだ。
「刑事さんだからって、家主の断りなく入ってきちゃいかんでしょ?」
「え、ええー……い、いや僕は……悪い練能力者から、君を……保護しようと……」
はぁ……。ったく。
「どこに?」
「え?」
「どこに悪い練能力者がいるんすか? 刑事さん?」
背後で、アーニャさんが「え……?」と戸惑っている。
まあたしかに?
彼女は俺の命を狙ってきたらしいが?
しかし別に俺はこうしてピンピンしてる。
被害は受けていない。
それに……。
姉に会いたいって、泣いてるのが……なんか……かわいそうでな。
「彼女は……あー……酔っ払いのお姉さんだ!」
「え、ええー……??」
「彼女はお酒飲みすぎて、ハイになって服を脱いで、俺の屋敷に勝手に入ってきただけの、酔っ払いです」
「い、いや命を狙った練能力者だって……」
はぁ……ったく。
「刑事さん? あんた刑事さんだよね」
「え?」
「酔っ払いの言うこと、いちいち真に受けるなよ」
そう。
全部あの女が、酔ってやったって、ことにする。
「襲撃もなかったし、命も狙われてない。単に酔っぱらいを介抱しただけ。殺人なんて起きてない」
「しかし……」
「つーかよ、怒ってるレベルで言えば、俺はあんたのほうにムカついてんだけど?」
何勝手に、家に上がってきてるのって。
しかも……。
「俺がピンチだって、わかってたような
タイミングでしたね? なに、盗み見ですか? ええ?」
「あ、いや……すみません……」
ったく。
「次から気をつけてね」
「あ、はい……え、ええと……その女は……?」
振り返ると、アーニャはぽかんとしていた。
やれやれ。
「まだ酔ってるみたい。酔いが覚めたら、【家】まで送り届けるよ」
「! そ、それって……」
まあ、かわいそうだしな、彼女の故郷へ、送り返してあげよう。
「てことだから、帰って刑事さん」
「あ、う、うん……ごめんねなんか」
「いいっていって。でも次また不法侵入してきたらキレるから。あと盗み見たやつも」
「ひぃいい! すみまっせんでしたぁあああああああああああ!」
刑事が泣きながら逃げていく。
フェリはその姿を見て、呵々大笑する。
『人を守るべき刑事のはずが、三下ギャングのように逃げていく! 愉快だなぁ!』
「迷惑千万だっつーの……」
無一郎が居なくなったあと。
俺はアーニャのもとへ行く。
「どうして……? 私をかばったの……?」
どうして……か。
まあ、泣いてるこいつが、かわいそうだったからってことくらいしか思い浮かばん。
全くの他人だったり、ガチで殺しにかかってきてたら(ナイフとか刺されたとか)、まあ話は別だけどな。
「さっきもいったろ? あんたはただ酔ってただけ。酔っ払いの戯言なんて、いちいち真に受けねーよ」
アーニャは顔をくしゃくしゃにして、大泣きしながら……。
「ありがとう、ありがとう!」
と何度も頭を下げられたのだった。
やれやれ。
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