122.全裸の女が倒れてるんですが?
ある日のこと。
『主よ! 大変だ!』
現実、ばぁさんの家にて。
俺が目を覚ますと、でかいワンころがいた。
「どうしたよ、フェリ……朝っぱらから……」
『とにかく大変なのだ! すぐに来てくれ!』
ただならぬ雰囲気。
フェリが焦ることなんてほぼない。
これは、異常事態だ。
「わかった」
なんだ、敵か?
今度こそ敵だろうか。
そういや、今まで敵らしい敵がいなかったしな。
警戒しておこう。
そう、分断者(仮)をやっつけた(らしい)、妖刀の出番だ。
俺はアイテムボックスにいれてあった妖刀を片手に、フェリとともに庭に行く。
これはついに、敵が現れたのか。
どうにも俺は、ばあさんのところでチートを手に入れて以来、戦いらしい戦いをしてこなかった。
しかしフェリが焦るほどの事態、敵。
それが現れて、ついに俺も、ファンタジーバトル小説よろしく、バトルが発生するのかもしれない。
俺は平穏を望んでいる。
それを邪魔するやつは、実力を行使させてもらおうか!
さぁ、いったいどんな敵が現れるのだ!
『見ろ!』
「おう!」
『全裸の変態がいるぞ!』
「………………………………おう?」
屋敷の入り口に……。
たしかに、全裸の変な女がいた。
「な、なんだこいつ……」
そいつは衣服を身にまとっていなかった。
全裸でうつぶせになってる。
「……………………」
『な? 変態だろう?』
「ああ、大変な変態だ」
いったいぜんたい、こいつは誰で、何しにここに来たんだ……?
「警察呼ぶか」
「う、うう…………はっ! ここは!?」
女が目を覚ました。
俺は目をそらしながら訪ねる。
「あんた、あれか? 酔っ払いか?」
「…………はぁ? 何を言ってるのだ貴様」
「いやだって、あんた全裸だし」
「………………………………………………………………は?」
女の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
そして……。
「いやぁああああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴を上げて、体を隠す。
そりゃそうだ。
「なんだなんなのだ!? あたしは、どうして!?」
「あーはいはい。とりあえずこれでもかぶってろ」
俺はアイテムボックスから、ばーさんの家にあった赤いローブを、適当に取り出して、女にかぶせる。
「!? こ、これは……覇者の外套!?」
「はしゃのがいとう?」
「異世界の超レアアイテム! ど、どうして貴様がこれを……?」
「どうしてって……家にあったやつ適当に持ってきたんだけど?」
女は困惑しまくってるのか……。
やがて、気を失った。め、迷惑ぅ。
「なんなんだよこいつ……全裸でやってきて、急にわめきだすし」
『鑑定でも使ったらどうだ?』
あ、そっか。
「鑑定」
~~~~~~~~
アーニャ・プリセツキ
錬能力者
能力 音魔法
備考 先ほどまで狂化状態だったが、浄化された
~~~~~~~~~
「なんか、錬能力者みたい」
逆異世界転生者のことらしい。
しかもなんか、狂化って状態だったそうだ。
「なんか知らんが浄化されたみたいだけど」
『またしても何も知らない主であったな』
まったくね。
しかし……全裸女、アーニャをほっとくのも忍びない。
「しゃーない。保護するか」
『おいしくいただかないのか? 据え膳食わねば……あいたっ』
現実に染まりすぎなフェンリルの鼻先を指ではじき、俺はアーニャを屋敷につれてくことにしたのだった。
しかし狂化に浄化って。
いったい誰が、いつ、かけて、いつ浄化されたんだか。