118.荒神
さて、界人が現実に帰ってきた、一方その頃。
界人の家にある、庭の温泉にて。
一見動物に見える、神々が集まって、温泉で会議を行っていた。
『いやぁ、危ないところじゃったのぅ』
『まったくじゃあ』
『まさか、荒神が出現するとはのぅ』
ううむううむ、と神達がうなっている。
そこへ、金猫(※界人が現実で助けた猫の神)の、娘の猫がたずねる。
『ねーねー、おかーさん。あらがみってなぁに?』
他の神々からすれば、当然知ってること。
しかし金猫の娘は生まれたばかりで、まだ神の事情をよく知らない。
母である金猫が娘に解説する。
『負の念の集合体のことよ』
『ふのねん?』
『悔しかった、恥ずかしかった、辛い……そういう人間達が抱く、マイナスの感情よ。それはほっとくと大気中で集合し、一つの化け物になるの。それが、荒神』
『うー……? ばけものなのに、かみさまなの?』
そうね、と金猫がうなずく。
『この日本という土地には、八百万……たくさんの神さまが住んでいるの。でも全員が良い神さまじゃないの。人間もそうだけど、いい人もいれば悪い人もいる。神もそうなの』
でも、と金猫は続ける。
『荒神は、確かに悪い神ではあるんだけど、必要な神でもあるのよ』
『うー……? どういうこと?』
『荒神は、人間達から負の念を、吸い取ってあげているの。そうしないと人間達はストレスでしんでしまう。でも負の念は……美味しくないの。誰も食べようとしない。でも……荒神はやってくれている』
ようは、嫌なことを率先してやっている神ということなのだ。
……まあ、その結果、暴走し、災害をもたらすのだが。
『荒神が暴れる頻度が、近年活発になってきておるな。前回はだいたい10年ほど前じゃったかの?』
『ええ、あのときは大変でしたね……』
『まだ10年も経ってないのに、暴走を始めるなんて……』
『それだけ、現代人がストレスを抱えておることじゃろう。嘆かわしいことだ』
神々が嘆く。
そんななかで、金猫が言う。
『今回の大雨も、そして前回の火山の噴火も、荒神が引き起こした災害でしたね』
そう……。
界人たちは知らないが、長野を中心として大雨・洪水警報が発令されていたのだ。
未曾有の大雨が襲い、南信地域(松本・木曽)では特に土砂崩れがあちこちで起きていたのだ。
しかし……。
『界人ちゃんが来た途端、ぴたりと雨が止んだの』
『荒神も、界人ちゃんを恐れてるのじゃろうか?』
『ううむ……わからん……。じゃが、荒神の邪気を払ったのは、紛れもなく界人ちゃんじゃ』
そう、本来だったら荒神のせいで、もっと大きな災害が起きるところだった。
しかし界人が帰ってきたことで、それが未然に防がれたということだ。
しかし……
金猫の娘は首をかしげる。
『ねーえ。どうして? 荒神を、みんなとめないの?』
『神はそれぞれ大きな力を持っているからよ』
『? 力があるんだったら、非力な人間にかわって、神の暴走をとめればいいんじゃないの?』
『神同士がぶつかり合うと、下界にさらなる混乱を招く。大きな力のぶつかりあいを避けるため、神は互いに不干渉なのじゃよ』
へー、と金猫の娘が納得したように言う。
『あれぇ? でもままも、おじーちゃんたちも、かいとちゃんに干渉してない? お風呂に入りにくるのは、干渉じゃないの?』
確かに、界人は神のごとき力を持っている。
ほぼ神のような存在だ。
実際に長野神と呼ばれているし。
ならば界人が、荒神に干渉することや、金猫たちが界人に関わるのはルールに抵触するのでは……?
サッ……と神々が顔を背ける。
金猫が苦笑しながら言う。
『まあ、どこまでが干渉に当たるかの、明確なルールは無いから』
『ゆるゆるるーるだぁ……』
まあ、何はともあれ。
『界人ちゃんがいなかったら、今頃大雨で長野は沈んでいたってことじゃ』
『あの子はやはりすごいのぅ』
『うむ、すごいすごい』
……とまあ、そんなことが裏で行われていたのだが……。
もちろん、界人は気づかないのであった。
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