116.エリクサー無限生産スライム
カイトが現実へと戻った、その少し後のこと。
勇者ブレイバは、魔法使いのカリスに、ベヒモスのタイクーンを加えた3人で旅をしている。
「ぜえ……はあ……や、やばかったぁ……」
彼ら3人が居るのは、奈落の森と呼ばれる、魔境だ。
強いモンスターがうじゃうじゃいる場所である。
「モンスターパレード……ほんと、危機一髪だったわね」
モンスターが大群をなして、奈落の森近くの村を襲っていたのだ。
ブレイバは救難要請を受けて、奈落の森へと入り、モンスターの大群を倒したのである。
「村に……報告に行こう。もう大丈夫だって」
『しかし勇者、あなたはかなりボロボロですよ?』
「おれは大丈夫だから……あっ」
どさっ、とブレイバが倒れ込む。
「ちょっ! ブレイバ! 大丈夫なの!」
「はは……わるい、カリス……ちょっとヤバいかも……」
奈落の森は、ただでさえ強いモンスターが住んでいる。
その大群を相手に立ち回ったのだ。
疲弊して当然だし、彼は死力を尽くして戦ったので、もう結構やばかった。
「って! ちょっと! あんた腹見せてみなさい!」
ブレイバの服をめくると……。
『なんという大けが……これでよく生きてる……』
「もう! ばか! 痛いならそう言いなさいよ!」
内臓が飛び出るほどの大けがに、しかも……。
『呪毒……! 傷口から呪いが侵食しているじゃないですか!』
「はは……もしかして、ピンチ?」
勇者の、大ピンチであった。
「こんな時にレンゲルがいれば……!」
彼らの元仲間、レンゲルは天導教会の仕事があるからと、パーティを離脱してる。
『これほどの傷と呪い……治すためには、完全回復薬が必要だ』
「そんな高価な物! 持ってるわけ無いじゃない……!」
完全回復薬。
文字通り、あらゆる怪我も病気も、呪いすらも治してしまう、最上位の回復薬。
だがその生成には非常に高度な技術と、素材が必要と言うことで、1本買うにもかなりの費用がかかる。
勇者でさえも、安易に買えるような代物ではないのだ。
「へへ……ケチったのが、あだになっちまったかぁ……」
「やだ! ブレイバ! 死なないで!」
「ああ……ししょー……ごめん。最後に……ししょーに……会いたかった……」
と、そのときだ。
『カリス、非常に言いにくいが……モンスターの気配です』
「! こんな時にっ!!!」
最大戦力の勇者が戦闘不能である以上、カリスとタイクーンの二人で戦わねばならない。
しかしふたりもまた疲弊しており、勇者ほどの火力を単体で出せるわけじゃない。
万事休す……しかし。
「って、なにこれ? スライム?」
やたらとでっかいスライムが、のっそのっそ、と現れたのだ。
『敵意は……感じませんね』
タイクーンは警戒を解く。
スライムはジッ、とブレイバを見つめると……。
「ぶべっ!」
「!? 何か吐き出したわ!!!」
巨大な水の玉が吐き出されると、ばしゃり、とブレイバの顔にかかる。
「ぶえっぷ! いきなり顔に水ぶっかけるとか、なにすんだおまえぇ!」
……と、そこで勇者は気づいた。
「!? き、傷が……治ってらぁ!?」
内臓が飛び出るほどの傷、そして死を招く呪い、さらには失っていた体力すらも元通りになっていたのだ。
「ぶれいばぁあああああああ! 良かったよぉおおおおおおおおおお!」
カリスは泣きながら、愛しい勇者に抱きつく。
しかしタイクーンは解せない、といった感じで首をかしげる。
『いったいどうしてなおって……はっ! こ、この匂い……完全回復薬です!』
「なんだって!? じゃ、じゃ……おれが浴びせられたのは、完全回復薬!?」
スライムは、のっそのっそ、と這いずって去っていく。
ぼとっ……ぼとっ……。
『む? 何かスライムの体からドロップして……こ、これはぁあああああ!? この匂い! 完全回復薬ですよ! しかも、大量に!』
スライムが這いずったあとには、大量の瓶いり完全回復薬が落ちていたのだ。
「信じられないわ……完全回復薬を生成するスライムなんて聞いたことない……いったい……なんなの……?」
『わ、わかりません……ちょっと聞いてみます!』
タイクーンは魔物なので、魔物どおし話が通じる。
スライムに出自を聞いたところ……。
『わかりました! このスライムは……賢者様のテイムモンスターです!』
「!?」
賢者……すなわち、カイト。
彼らの師匠(勝手に思い込んでいる)の、テイムモンスター……。
「なんで賢者様が、こんな凄いスライムを放置してるの……?」
「ばっかおまえ! 決まってるんだろ! おれらみたいな、この危険な森に来た人たちに、完全回復薬を無償プレゼントするために!」
……もちろん、違う。
そもそもカイトはこれが完全回復薬だとしらない。
単なる回復薬(ゲームで言うポーション)だとしか認識していなかった。
スライムは、薬草を食べて勝手に完全回復薬を生成してばらまいているだけである。
「この完全回復薬も、きっと師匠が使えって、おれらに残してくれたメッセージだよ!」
「そ、そうなの……?」
「そうに決まってる! でなければ意味わかんねえもん!」
……その意味わからん行動をしているだけなのだが。
ブレイバは勝手に意味を見いだしてしまう。
「タイクーン! カリス! これを集めて村にいくぞ! 怪我人を治すんだ!」
「え、ええ……」『うむ』
ブレイバが空を見上げる。
大きな、カイトの姿が空に映る……。
「やっぱりししょー。あんたは……おれらのことをずっと見守ってくれてるんですね……!」
……別に見守ってないし、助けるつもりもない。
なんか凄い師匠感出しているが、その凄い師匠はブレイバの中にしか、存在しないのだった……。
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