11.夕飯はカレーで
魔法の訓練を終え、俺は漫画家のなぎと一緒に、現実に戻ってきた。
買い物に行ってる麗子たちを、家まで送り、俺はホームセンターで買い物をしてから帰宅。
「おかえりなさい、界人さん♡」
「お、おう……ただいま、戸隠さん」
黒髪のJK、戸隠麗子が俺を出迎える。
この子は俺がもともと住んでいたマンションの、大家の娘。
痴漢されてるところを俺が助けたら、なぜか俺がやったことになり、マンションを追われたのだ。
父親の態度に反発して、家を出て、今は俺のもとで暮らしている。ちなみになぜか奴隷になっている、なぜか、喜んで。
「おうちのお掃除しておきました! それと、お料理もできてます!」
「おお、まじか。ありがとう」
正直見知らぬJKを家に置いて、しかも奴隷にするなんてって、抵抗を覚えていた。
でも本人は罪滅ぼしがしたいっていうし、俺としても、こうして家事の手伝いをしてくれる存在がいるのは、助かる。
「飯にするか」
「はい!」
……で、リビングに移動したわけだが。
「…………こ、これは」
「カレーです!」
リビングは、和室になってる。
ちゃぶ台の上には土鍋があり、その中には、黒々とした鍋が置かれていた。
となりでフェンリルのフェリが、あおむけになって、白目剥いてる。
「だ、大丈夫かフェリ……?」
はっ、とフェリ(人間の姿。人間の家だと窮屈だから人間フォームになってる)が目を覚ます。
麗子と一緒に買い物にいって、女物の服を着ている。
「主よ!」
だきっ、とフェリが俺に抱き着いてきた。明鏡止水がなかったら、今頃動揺していただろう。
それほど、人間姿のフェリはナイスバディの超絶美女なのだ。
「こやつ、料理、下手!」
ストレートに麗子の料理をなじる。
まあ、見た目だけでまずそうとは思ったんだが。
「なんじゃこれは! こんなくそまずいもの生まれて初めて食ったぞ! 死ぬかと思ったわ!」
「ご、ごめんなさい……フェリちゃん」
ぐるるる、と威嚇するフェリを俺はなだめる。
お嬢様なんだから、料理なんてしたことないんだろう。
しかも父親が結構過保護っぽいから、台所に立たせてもらったことはないだろうし。
なら、メシマズになってもしかたない。
「俺がご飯作るから、気を静めてくれよ」
「うむ! それがよい!」
一転して、フェリがしっぽをぶんぶんぶん! と激しく振る。
どことなく大型犬を想起させた。いやまあ、大型犬なんだけどさ。
「界人さん、すみません……わたし、役立たずで」
まあ飯作れないのはしょうがない。子供だし、箱入り娘なんだし。
「気にしないでよ。掃除してくれたのと、あとそこの大型犬の面倒見てくれたじゃないか。十分だよ。あんがとね」
「あうう……♡」
麗子が顔を真っ赤にして、体をもじもじさせる。
何を照れてるんだろうか。
「界人サン、うち、お風呂入りたいっす」
「ああ、いいぞ。てか風呂の準備は?」
「できてます!」
麗子が風呂を入れてくれてたようだ。
「れーこちゃん、一緒にはいろっす!」
「はい!」
なぎたちがふろ場へと向かっていく。
「吾輩はテレビでも見てくるかな!」
すっかり現代になじんでるな、大型犬さんは。
俺はリビングへ行き、麗子が作った失敗作のカレーを回収する。
「ん? 食べかけの皿が、2つ?」
フェリが食ったのは聞いたが、もうひとつは、誰が食ったんだ?
「フェリ、おまえ以外に、誰かカレー食ったか?」
「? いいや、吾輩だけだぞ?」
「じゃあ、これカレー食ったの、誰……?」
まあ麗子が自分で味見したんだろう。
そうじゃないと考えられないし。
キッチンへ移動し、鍋をシンクの中に置く。
「カレーでも作るか。簡単だし。……鍋は、買いなおし、いや、魔法で直すか。【修復】」
無属性魔法の修復を使う。
これは壊れたものを元に戻す魔法だ。
黒こげの鍋がみるみる直って、新品同様になった。おお、便利。
次に、俺は冷蔵庫の中を見やる。野菜などはストックがあったけど、肉がなかった。
「肉はー……あ、そうだ」
俺はアイテムボックスを開く。
収納しているアイテムの一覧が、俺の面前に、半透明の板となって出現する。
・黒王竜の肉(SSS)
異世界に来て初めて倒した竜の肉を、ドロップ品として回収していたんだった。
これを使ってみるか。
鑑定スキルで食用できることを確認した後、俺はカレーを作る。
とんとん、ぐつぐつ、じゅーじゅー。
「よし完成。できたぞ~」
「きたーーーーーーーーーーーー!」
リビングへ行くと、フェリがテーブルに手をついて、今か今かと待ち構えていた。
鍋をテーブルの上に置いて、炊飯器をキッチンから持ってくる。
「はよう飯にしよう!」
「いや、みんなそろってから……」
「まちきれぬ! 今全部ぺろっと食べてもよいのだぞ!?」
「わかったわかった。おまえの分だけ先によそっとく」
俺はカレーを1人前作って、フェリの前に出す。
フェリはスプーンを使わず、犬食いしようとする。
ひょいっ。
「ああ! なぜ取り上げる! いじわるー!」
「待て待て。その姿で犬食いするな」
「わかったから! めしー! めしー!」
自分が誇り高きフェンリルだから、そんなことできるか、とか、犬扱いするなー、とか。
そういうんじゃなく、もう飯のことしか考えてないようで、飯のためなら素直に言うことを聞くみたいだな。
俺はスプーンを渡すと、がつがつがつ! とフェリがカレーを掻き込んでいく。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」
フェリのしっぽが、ぶわっ、とまるで竹ぼうきの先端のように膨らむ。
「うーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」
またも口からビーム出すのかと思ったが、どうやら人間の時はビーム出ないようだ。
「うまい! うますぎるぅ! なんだ、なんだ、これ、うま、すご! うま!」
がつがつがつがつ!
あっという間に、フェリが一皿食べてしまった。
「主よ! 天才! おぬしは料理の天才だな!」
「大げさだろ。ただのカレーなのに」
俺は上京してから会社をクビになるまで、ずっと一人暮らしだった。
一通りの家事はできるし、自炊もしていたので、飯も作れる。
ただ作れる飯は、ほんと俺一人が楽しむために作ったものなので、あんまり凝った料理はつくれない。天才って言われてもな。
「いや! こんな世界レベルで美味なる料理を作れる、主は天才だ! すごすぎる!」
「お、おおげさだなぁ」
まあたぶん異世界人(犬?)であるフェリからすれば、カレーは未知の食べもので、刺激的だったんだろう。
それでも、作った料理にここまで喜んでもらえるのは、うれしいもんだな。
「うんうん、さすが我が愛しのカイト♡ 料理も上手になったねん♪」
「はは、だろ……え?」
フェリの隣で、見知らぬ幼女がカレーを食っていた。
紫色のショートカットで、どう見ても10歳前後の幼女が、我が物顔で飯食っていた。
「だ、だれ!? あとなんで全裸!?」
肩からタオルをかけているだけで、ほぼ全裸の幼女が、うまうまとカレーを食っていた。
「あん? なにを驚いてるのん♪ 愛しの孫よ♪」
「孫……?」
とそのときである。
「「か、界人さん!」」
どたばた、と女子高生たちがかけてくる。
「い、今なんか変な幼女が、我が物顔でお風呂に入ってたっす!」
「し、しかも風呂場から一瞬で、煙みたいに消えちゃいました!」
女子高生たちが、全裸の幼女を見て悲鳴を上げる。
「こ、この子っす!」「界人さん、誰ですかこの人!?」
「いや、俺も、知らないんだが……」
するとカレーを食べていた全裸幼女が、きょとんとした表情になる。
しかし何かに気づいたのか、笑いながら言う。
「あたしだよん♪ 万里ばあちゃん♡」
「………………………………は?」
ま、万里、ばあちゃん?
「え、う、うそ……?」
「嘘じゃないよん♪ 暇ができたから会いに来たぜ♪ ああん、かいと~!」
全裸幼女が俺に抱き着いてきた。
明鏡止水が発動してなきゃ、戸惑っていただろう……しかし、まじでばあさん?
いや、でも魔法で消えたっていうし……。
ばあさんは、ばあさんで、見た目老婆だったのに、この子は幼女だし。
「会いたかったぞ~い♪」
「ほ、ほんとにばあさんなら……万里ばあさんの好物答えられるか?」
「竹風堂の、栗ようかんだよん!」
「お、俺の好物は?」
「巨乳の女だよん♪」
おいいぃいいい【明鏡止水が発動しました】。
「巨乳の……」「女……」
女子高生たちが自分の胸をぺたぺた触ってる。二人とも立派だけど、やめて。
さらにご立派なおっぱいをしてるフェリは、俺たちにわれ関せずと、カレーをうまうま食っていた。
「ま、まじで万里ばあさんなの?」
「そう言ってるよん、最初から♪ ひさしぶりねん♪」
……俺の家に、世界魔女のラブ・マリィこと、飯山ラブ万里がやってきたのだった。
幼女の姿で、なぜか。