107.ヤバすぎる神
界人のもとに、襲撃に来た練能力者たちは皆……返り討ちに遭った。
公安の刑事、贄川 無一郎は東京に帰ってきて、駅前の喫茶店へとやってきた。
椅子に座ると同時に電話がかかってくる。
「……僕だ」
『やあ変身者。元気?』
「そんなわけないでしょ……」
無一郎はため息交じりに言う。
彼は当然、アーニャ達の動向に気づいていた。
保護観察対象である、界人に危害が及ぶようなら、実力を行使するつもりだったのだ。
しかし……杞憂に終わった。
電話の向こうで、公安の目である見晴者は苦笑しながら言う。
『驚いたね、あれには』
「ああ、まさか全員消されるとはね……」
アーニャ達、練能力者は車を使って東京から山梨を経由して、長野へとむかった。
その途端、彼らは……消えたのだ。
文字通り、一瞬にして存在が抹消されたのである。
「……あれは界人君の?」
『多分ね。悪人を感知し、発動する結界のようだ。とてもじゃないが、人間レベルじゃあないね』
無一郎も見えていた。
車が長野に入った瞬間、突如として蛇行を始めたのだ。
壁に激突し、動かなくなった車を調べたところ……。
誰も中にはいなかったのだ。
……いや。
【一人だけ】いた。
アーニャ・プリセツキ。
公安がマークしてる、高ランクの練能力者の一人だ。
「界人君ちょっと凄すぎってか……全員消すのはやり過ぎじゃないかな……?」
『ああ、問題ないよ。彼らは死んでいない』
「!? し、死んでない……だと……?」
無一郎は確かに観測した。
練能力者達が消えたのを。
『万里さんに聞いた。アレは消滅の魔法じゃないそうだ』
万里とは、世界魔女ラブ・マリィのこと。
世界最高の魔女であるが、死んでしまい、魂だけの存在になってる。
今はアドバイザーとして、公安にたまに力を貸してくれる(そんなに頻繁には連絡取れない)。
「じゃあ……あれはいったい?」
『転移、そして忘却の魔法の複合魔法だってさ』
「? ?? ?????」
……理解の範疇外だった。
いや、名前から効果はわかる。
転移、つまり別の場所へとテレポートする魔法。
忘却、つまり記憶を消す魔法。
『練能力者達は長野の山中で、記憶を失った状態で放り出されていたのだよ』
見晴者は公安の目。
幅開く、現場を見つめることができる。
彼女が観測したところによると、今回襲撃に遭ったものは全員、生きてるそうだ。
しかし記憶とそして、自分が殺し屋だったことも忘れていたという。
そして何より……。
『みな、人が変わったみたいに、善人になっていたそうだ』
「……なんだ、そりゃ」
『悪い感情が浄化されたんだろうね。とにかく、まあ人間業でもないし、ましてや、我々、練能力者ができることの範疇を超えていた……うん、神だね』
前から、もうレベルの違いを見せつけられていた。
しかし今回は、桁が違った。
『あとね』
「まだあるのかよ……」
もう疲れすぎたよ……と無一郎がげんなりしながら尋ねる。
『これのすごいのは、界人君、自分でこの魔法を編み出してないとこ』
「…………はい? 自分で張った結界じゃないってことか?」
『いや、力の源は界人君らしい。けれど結界は、界人君を守るために、誰かが作ってくれたみたいなんだ』
「だ、誰かって……?」
すると見晴者はあっさり言う。
『神』
……。
………………。
…………………………。
「馬鹿げてる……非科学的だろ」
『だがそうとしか考えられない。あれだけ強力な結界を、界人君が作ってないし、練能力者でもない。となると、第三者的存在……神が浮かび上がってくる』
頭を押さえてうずくまる無一郎。
そこへギャルっぽいお姉さん店員が「だ、大丈夫ですかー?」と聞いてきた。
大丈夫だと答えた後に、無一郎が言う。
「……僕はもう理解できないよ。神ってなんだよ」
『わからない』
異次元者。
そう、彼のコードネームと同様だ。
彼の起こすことに対して、理解できた試しは一度も無かった。
「ふぅー……」
無一郎は空を見上げて、晴れ晴れとした表情で言う。
「うん、理解を諦めます」
もう無理だ。
全然理解できない。
『それがいい。もはや界人くんは、我々が理解できる領域を遥かに超えた凄まじい力を持ってる』
「だね……」
もう余計なことはしないでおこう。
もう首は突っ込まないでおこう。
『ま、だからといって君が、界人君係から外されることはないよ?』
「ふぇえ……まじかよぉ~……」
『ああ、県清美がまたやらかしてるからね』
「またかよぉ~……もぉ~……」
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