103.神の前に人は無力
界人の所業が、全国区で放映されていた。
県清美の手によって。
彼女はあるぴこTVの局アナになっていた。
彼女は【長野神】……つまり、界人の偉業を全国に流す。
曰く。
【浅間山が大噴火するところだった】
【それを救ったのが長野神】
【すごい】
と。
「…………」
それを見ていた、公安の刑事、贄川無一郎は一言。
「こいつ……アホなのか?」
そうとしか言いようがなかった。
県が報じた物は、ニュースというのにはあまりにかけ離れた、いわば夢物語のようなものだった。
「科学的な根拠が何も無いのに、誰が信じるんだっての……!」
なにせ、大噴火が起こってもいないのだ。
また噴火が起こるというデータもない。
そんな状況で、神が日本を救った?
「誰が信じるんだ、こんなアホ話……」
無一郎の受話器の向こうから、公安刑事の見晴者の声がする。
『ま、ゼロだろうね。……今のところは』
「……今のところ?」
『ああ。おそらく県清美は、長野神……つまり界人くんに相当、心酔しているのがうかがえる』
まあたしかに。
自分の異能力を使って、手に入れた界人の情報を、公共の電波に乗っけている。
しかも神としてあがめている。
どう考えても、信者……いや、狂信者的所業と言えた。
『今回の件は未遂で済んだからいい。だが……彼はこれからも確実に何かやらかす。それを県清美が報じまくる。するとどうなる?』
「……長野に、神が居る?」
そう、一般人が信じてもおかしくない。
すでに安曇野の病院で一度、大きな奇跡を起こしているのだ。
同じことをすれば、嫌でも気づく。
しかも今回は、前回と違って、県清美という伝道師がついてる。
彼が能力を使って何かすれば、それを全国に、あますところなく報じるだろう。
そうすると、日本に神が居るのだって、信じる人たちも激増するに違いない。
『そのうち長野に移住してくる人も増えてくるだろうね』
「そりゃ……神がいるんだからな」
その恩恵にあずかろうと、全国から集まってくる可能性は高い。
『日本の首都が長野になる日がくるかもね』
「冗談はよしてくれよ……」
『いや? あたしは冗談で言っていないよ?』
「…………」
無一郎にも、冗談に聞こえなかった。
「……どうすればいい? 彼を制御するとか?」
『無理』
「だよなぁ……」
界人と公安とでは、実力差が離れすぎてる。
彼が本気を出せば、公安なんて瞬殺だ。
『今は下手に手を出さない方が良い。せっかく、長野神のおかげで、悪い練能力者たちが活動自粛、廃業してるんだからね』
「でも……じゃあこの報道はどうすんだよ?」
『まあ……ほっとくしかないね』
県をとめようにも、彼女にもまた凄い能力がある。
下手に手を出せばカウンターを喰らう。
かといって、飯山界人を制御することは不可能。
『我々はただ傍観するしかないのさ。神がどうか暴走しませんようにって、祈りながら』
「……何に祈れば良いんだよ?」
神が地上にいるのならば。
見晴者は開き直ったようにいう。
『そりゃあもう、地上の神ご本人に、でしょ』
電話が切れる。
無一郎は途方もない無力感に包まれていた。
「界人君……君ほんとうにすごすぎるよ……だから……お願いだから……おとなしくしててくれ……」
おとなしくも何も、界人自身、騒動を望んでいない。
彼が無意識に力を使い、彼の自覚していない外で、大事件が起きてるだけなのだ。
「はぁ……ごめん零美、息子達、当分家に帰れそうにないや」
無一郎はスマホのアルバムを開いて、自分の家族の写真を見ながら、そうつぶやくのだった。
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