100.昼間から温泉、からの亀
猫の神が子供を連れてやってきた。
神気とやらを俺は分けたらしい。
そのお礼に神の力をわけてもらった。
結果、温泉が噴き出した。
「ふぅ……」
場所は現実、ばあさんの屋敷の裏庭だ。
そこに立派な露天風呂がある。
最初は、まあびびったし嫌だったよ?
でもこの温泉……めっちゃ気持ちイインすわ。
「はふ……」
魔法を使えばちゃちゃっと、湯船が完成した次第だ。
「これからは毎日、好きなときにこの露天風呂に入れるってんだったら、まあ……悪くないかぁ……」
人助けしてみるもんだな。
いや、神助けか。
助けてすらいないんだが。
『そうだなぁ、主よ~』
「…………フェリさん?」
俺の隣に、デカい狼のようなモンスターが座っている。
「君、メスじゃなかった?」
『そうだが、なにか問題でも?』
「俺男、ここ男湯、君女子」
『堅いこと言うな。それとも、主はこんな毛むくじゃらに欲情するのか? ん? 浴場だけにってか? わははは!』
ま……いっか。
人間姿ならまだしも、今は犬の姿だしな。
『いやはや、面白い冗談ですねえ』
『だろう?』
『僕も冗談は得意なのですよ? 下手な洒落はやめなシャレと』
『わははは……』
…………
……………………。
………………………………。
「『だれ!?』」
明らかに知らないやつの声がしたぞ!?
周りを見てみるが、別に人間はいない。
公安のやつも、能力者もいない。
『僕はここですよ』
「ここって言われても……あ」
目の前に黒くて、固そうなものがぷかぷか浮いてる。
亀の甲羅だ。
俺はそれを手に取って持ち上げる。
『やぁ。君が長野神ですね?』
「は……? な、ながののの……かみ?」
なんだそりゃ。
初めて聞いたぞそんな単語。
『おやおや? 君はテレビを見ないのですか?』
「テレビ? そういや、最近はめっきりテレビ見なくなったな」
昔と違って、今はテレビを見ずとも情報収集できるしな。
それにユーチューブもある。
好きなタイミングで、好きな動画が見れる。しかも自分の好きなタイミングで動画を途中で止めることができる。
便利すぎだ。
それと比べると、自分で見るタイミングをコントロールできないテレビを、どうしても不自由に感じてしまう。
今はサブスクも充実してるしな。
『なるほど、なるほど。長野神はテレビを見ませんか。僕は神ですが、下界の情報収集は怠りませんよ』
「だからまじで長野神って……ちょっと待て」
今……なんか気になる単語を言ったぞこの亀。
いや、しゃべる亀ってじてんで、嫌な予感がしたんだ俺は。
『申し遅れました。僕は黒亀。金猫さんと同じく、いわゆる神的存在ですね』
まじかよ……!
恐れていたことが起きてしまった……!
「な、なんで神がここに?」
『金猫さんの噂を耳にしたのですよ』
「きんびょー……ああ、あの猫?」
『ええ、その猫。彼女曰く、ここは神気が凄いらしくて。実際に来て驚きました』
俺の手から黒亀が降りると、温泉のなかをぷかぷか泳いでいる。
優雅に泳ぐ様は……亀だ。
とてもじゃないが神に見えない。
でもしゃべってる。じゃあ、神……だよなぁ……。
『あまり驚かないのですね』
「まあ……色々あったしな」
異世界を行き来するようになってから、びっくりどっきりするようなことばっかりだしな。
『なるほど、最も新しき神は、胆力にも優れているのですね』
「やめろ。俺は神じゃねえ」
『そんなに神気を漂わせているのに?』
だからさぁ……。
「その神気ってなに?」
『神の発する聖なる波動です』
「それを俺が持ってると?」
『ええ。しかも、かなりのものを』
まじかよ……。
全然気づかなかった。
『これで神ではなく人間というのなら、その方が驚きます。人間でこれほどまでの神気を持つひとなんておりません』
そういや金猫も同じようなこと言ってたような。
「神気があるとどうなるの?」
『どうなる……ですか。難しいですね……』
ううむ、と黒亀がうなる。
『僕らにとって神気はあってあたりまえのものですから、説明が難しいです。神の気としか』
「はーそう……」
やれやれだ……。
まーたよくわからんことに、巻き込まれていた。
公安しかり、能力者しかり、勇者然り。
今度は神ときた。
どうして俺は、こうもいろんな物に巻き込まれてしまうのか。
『あまり嬉しくない様子ですね』
「当たり前だろ。俺は平穏を望んでいるんだ」
『それだけの力を持ちながら?』
「ああ。てゆーか、それだけの力って言われてもわからんぞ」
どれを指して言ってるのかわからんし。
神気ってのも結局よーわからんしな。
『では……そうですね。長野神さん』
「それやめろ。俺は界人だ」
『では界人さん。僕の甲羅に手を置いてもらえないですか?』
甲羅……?
黒亀が俺の側までやってくる。
『よぉく見てください』
「うん……? ああ……なんか結構ひび割れてるな」
劣化したコンクリみたいに、あちこちひびが割れていた。
手で触ってみる。
ざらざらしてるもんだな。
ポンッ……!
「え、ええ!?」
『おお、亀殿。随分とピチピチになられたなぁ』
ピチピチって……いやいやいや!
「なんで裸なんだよ!?」
そこには裸の人間がいた。
しかも若い女だ!
僕って言ってたくせに、詐欺だ!(?)
「これは……ちょっと予想外すぎました……受肉してますよこれ」
「前を隠すか亀になれ!」
「おっと、失敬」
ぽん、と亀に戻った。ったく……。
表面の甲羅は、心なしかつやつやしていた。
鏡みたいに光っている。
『界人さん。君のおかげで神格があがりました』
「それ、昨日の猫も言ってたけどなんなの?」
『神としてのレベルです。あなたは凄いです。神を癒やし、それだけでなく、神の格をおしあげてしまう。素晴らしい、実に素晴らしいですよ』
凄いを連呼されてもわからん……。
なにがすごいんだ……?
『これは大変なことになりましたね。神無月で話し合うべき、新しい話題ができました』
「は? 神無月……? 話題? なんのこと?」
『いえ、こちらの話です』
ざば、っと黒亀が温泉からあがって、俺に頭を下げる。
『良いお湯でした。界人さん。いずれまた』
「もーこないでくれ……」
黒亀が一瞬で消える。
はぁ…………。
「なんで神がまた来るんだよ……」
『それほど、おぬしがすごいってことだろう?』
「だから何が凄いんだよ? 俺、ただ手で触れただけだぞ?」
『古い言葉には、手当というものがあるそうじゃないか。手で触れただけで、病を治すという』
あれは……ただの迷信、民間療法じゃないか。
『とまれ、おぬしはまたしても神の力を手に入れたようだぞ?』
「は? ま、またしてもって……?」
黒亀が居た場所に、金でできた亀の置物がおいてあった。
亀の口からは、どばどばとお湯が吐き出されている。
『面白いな、マーライオンみたいで』
「マーライオン知ってるフェンリルってどうなのよ」
『ふふ、吾輩はインテリなのだよ』
はー……また変なもの置いてかれたよ。
しかも今度は結構でかいし。
壊すのもなぁ。
なんか見事な置物過ぎて、壊すのが躊躇われる。
結局置いとくことにした。
「もう神は来ないでくれよ……」
『はっはっは。主も冗談が上手いなぁ』
冗談じゃねえよ……。
『吾輩知ってるぞ。こういうの、天丼っていうのだ』
何回も繰り返して、起きるネタのことだ。
「いやそういうのいいから。2回で十分だから」
3回目はやめてくれよ、いいか、絶対来ないでくれよ?
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