逆に追いかけるわよ!!
ここは地下の駐車場なのだ。明かりはあるが、元々、外からの光は入ってこない。一瞬で真っ暗になった。
「くっ」
ただ一つだけの明かりとなったレイモンドは苦しそうな声をあげる。
「こうなれば……! そうだ、今、ウィズ・ラピスラズリはここにいるってことは……! そうだ、不純物はもうないんだ! ということはもう作戦は実行はできるのか! だったら、さっさとあの男を連れ出さねば!」
レイモンドは今一番の高笑いをすると、
「さらばだ! フリークスよ! 誰もおれの実験には逆らえん!」
と言った。同時に光は消えた。
「逃げた……?」
ジャスは小さくつぶやく。
「逃げたのなら、早く、レイモンドを追いかけなきゃ。でも、作戦を実行ってどこでするのかしら? あの男を連れ出すって一体どういうことなのかしら? あの男って一体誰なのかしら?」
あたしの頭には疑問符がいくつも舞う。
ジャスは闇は消す。駐車場は光を取り戻した。
「ん……と。今一度、状況を整理しよう。レイモンドは優秀な闇使いの見習いであったあの人質犯をいじめていた。まあ、屈折した結果、復讐をしようと、レイモンドを呼び出そうとした。ボクが引き留めたせいで、それは叶わなかったけどさ。で……」
ジャスがそう言った瞬間、
「おい、アホ兄妹聞こえるか?」
アルトの声が突然聞こえてきた。テレパシーだ。
「こんなときにどうしたんだよ。レイモンドに逃げられたんだよ。今から探すところなんだ。邪魔しないでよ」
ジャスは気怠そうに返事をする。
「レイモンドの研究が分かった! 光使いの強化の研究だ。そして、転換だ! これが成功したら、世界の均衡がおかしくなる!」
「一体どういうこと?」
あたしの脳内に大きなはてなマークが浮かぶ。
アルトは焦った様子で、
「魔導力強化の研究の論文が出てきた。倫理的にどうなんだとレイモンドの考えに問題視する声もある問題のある研究だといわれていたようだ」
「はあ? 一体それはどういうこと? 分からないわ!」
アルトの言葉は短すぎて意味が分からない。あたしは当然聞く。
「俺たち常闇人は世界の裏側から魔導力を呼び出せば、無限に使えるものだが、人間には魔導力のキャパシティがある。それは先天性だ。酒といっしょだな。どうしようもない生まれつきのモノだ。レイモンドの研究はそれを強制的に増やそうとする研究だ。いうなれば、強制的に鍛えれば、魔導力は増えるという研究だ。そんなことをしたら、最悪、人間は死ぬ」
「ねえ……。アルト? それって、相反する力の人間に応用できるもの?」
アルトにたずねるジャスは冷え切った表情をしている。
「一体、どういうことだ?」
アルトの声はいぶかしげだ。
「だから、例えば……。闇の力をすべて打ち消して、光の力の魔導力をその人間にぶちこむ……みたいな」
「さあな。ただ、全く魔導術が使えない人間も使えるようになったようだから、闇の力を消せば、可能かもしれない」
「アルト、ウィズ。マズいよ。これ……。レイモンドは気に食わないあの人質犯を、強制的に光使いにするつもりじゃないかい?」
「えっ!」
アルトとあたしは声をそろえた。
「しまった! そういうことか!」
「どうしましょう!」
アルトは悪態を吐き捨てる。
あたしは焦せる。
「とりあえず、オマエらはサルビア魔導術学校へ向かえ。闇が混じっていれば、少しは時間がかせげるだろう」
「それはあたしたちが不純物としていれば良いって話?」
気怠げなあたしの声に、少し落ち着いたらしいアルトは、
「まあ、そうだな。オマエらはいてくれるだけで良い。これは人間の尊厳を失わせる理破りだ! 俺は懲罰部隊を呼び寄せる。ミリアムもちゃんと守る。それまで持ちこたえてくれ!」
「ラジャ」
あたしとジャスは同時に返事をすると、アルトのテレパシーは途絶えた。
「んじゃ、ウィズ、今回は自分で飛んでね。座標点は分かる?」
「どっちも分かっております。今回は酔わない自信があるわ。んじゃ、行くわよ」
あたしたちは大きく息をすると、サルビアシティの座標点を唱え、気合いを入れた。
二日ぶりのサルビアシティは相も変わらず、にぎやかだった。ストリートミュージシャンに、ジャグリングのピエロ。それを見ている観客たち。
このおかげでだれも突然現れたあたしたちには気がつかなかったようだ。安心した。
「この前よりも光の力が増してない? サルビア魔導術学校から漏れているのかな?」
「さあ?」
あたしたちはこんな会話をしながら、人混みの中をずんずん進む。
突然、パトカーがサイレンを鳴らしながら、人々の前に現れた。
警官が中から出てくると、
「市民の皆さま、今すぐご帰宅ください! この前の人質犯が脱獄しました!」
言葉とはうらはら、脅すような物言いで拡声器で怒鳴り散らす。
悲鳴があちこちで聞こえてきた。そら、あれはひどかったものね。いや、あたしが最大の被害者なんだけどさ。
「何をやっているんだ!」
「警察の怠慢を市民に押しつける気か!」
という、怒鳴り声も同時に聞こえてきた。そら、そうね。脱獄は警察の怠慢よね。
「ねえ、ウィズ……。これ脱獄したんじゃなくって……」
「そうね、脱獄じゃないわ。さらわれたのよ、レイモンドに」
「おそらく連れて行かれた先は」
「サルビア魔導術学校よ」
あたしとジャスはお互いの顔を見て、うなづくと、警官の制止を振り切って、サルビア魔導術学校へと向かった。
サルビア魔導術学校の校門前は恐ろしいほどに静かだった。いつもなら生徒と先生の声であふれているのに。
「あれ、朝は先生が校門に立っているはずよ。でも誰もいないわ」
あたしのつぶやきに、ジャスは、
「もしもし。そこで倒れているキミ……?」
ジャスは校門ので倒れている男子生徒の肩を叩いて、耳元で叫んでいる。男子生徒の反応はない。
「救急車……かな。でも、ちゃんと心拍はあるし、息も正常。魔導力不足で寝不足だったのかな。寝ているのを起こすのもかわいそうだ」
ジャスは立ち上がると、腕を組む。
「奥へ進みましょ。レイモンドを探さなきゃ」
あたしたちは校内へ進んだ。
校内もとても静かだった。そら、そうだ。みんな倒れて寝ていたのだから。
一人一人、確かめると、みんな魔導力不足のようだ。気を失ったように寝ている。
寝ているだけだから、時間が来れば、魔導力が戻って、目を覚ますはず。そこは一安心しておこう。
一体何がおきているのかしら?
「ねえ、ウィズ……。この学校って、光使いの学校なんだよね?」
ジャスは護衛術の先生の様子を見ながら、話しかけてきた。
「ええ。そうだけど……? 何をいまさら」
返事をするあたしに、
「もしかしてさ、レイモンドって、この学校の人間の魔導力も奪ったんじゃないの? だったら、この気絶事件は説明がつく」
「え?」
ジャスはとんでもない推論を言い出した。
「え、まさか! そんな!」
悲鳴を上げるあたしに、
「この前の力と合わせて、これだけの人間の光の力を集めたんじゃ、もうボクら程度の闇の力では不純物にならないかも。ただの誤差範囲になってしまう。一刻も早くレイモンドを探し、ぶっつぶして、理破りを止めなければいけない。考えられるとしたら、実験室だけど、どこにあるか知ってる?」
「ええ、もちろんよ。体育館の隣」
「案内して!」
「わかったわ!」
あたしはジャスの手を引いた。
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