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今日は明日の物語  作者: はしおとまひろ
8/12

戦闘開始!

「ほう。そのような事件があったのか」

 翌朝、機嫌が治ったアルトは、コーヒーが入ったマグカップ片手に、昨夜の掲示板のスレッドを頷きながら見ていた。

 昨日はカーテンでかくれて見えなかったけど、大きな窓の外は憎らしいほど晴れ晴れとしていた。青空の下には大きな学生街が広がっている。緑と近代的な建物が見事な調和で、気持ちが良い街だ。

 もし、あたしがこの時代の「人間」であったなら、絶対に目指していただろう大学のある街である。

 正直、ここが狙えるミリアムがうらやましいと思った。あたしたちはこの仕事が終わったら、世界の裏側へ帰らなきゃいけないから。

 未来あるミリアムとあたしは違う。そこに切なさを感じた。

「人間にケンカ売るって、相当、闇を憎んでいるとしか思えないな。闇側にも光を毛嫌いするヤツはいるが……。んな、ジジイみたいな思考がいてたまるかよ」

 パタンとコンピュータを閉じるアルトに、あたしは、

「ねえ、アルト? 一旦、あたしとミリアムは学校に帰ろうと思うんだけど」

 昨夜、ベッドの上で考えていたことを話した。

「は? ウィズってば、一体、何を言い出すんだよ」

 ミリアムの声は一オクターブ高くひっくり返った。

「だってさ、レイモンドはこっちにいるのよ? 調べ物はアルトとジャスに任せればいいじゃないの。レイモンドがいない学校はきっと快適よ」

 明るい声であたしは元気よく答える。

「それもそうだ……。本来の狙いがウィズではなく、あの例の人質犯への復讐とするなら、学校に戻ったっていいんだよな。レイモンドを調べている俺を狙えばいい」

「そういうこと」

 うなづくアルトにあたしは腕を組む。

「分かった。んじゃ、サルビアシティまでの切符は買ってやるから、そこからは自分たちでどうにかしろよ」

「自分たちで……と言いますと?」

 ミリアムの言葉に、

「自分で説明という名のここに来た言い訳は考えておけってこと」

 アルトは鞄を持つ。

「駐車場へ行くぞ。早くしないと、朝の駅前は混むからな」

 わたしたちをアルトは急かした。


 見送りにジャスも地下駐車場まで来てくれた。地下は寒気がするぐらい涼しい。「ボクも無断欠席なんだけど……」という言葉は無視し、ミリアムとアルトが車に乗り込んだそのときだった。

「アルト! 貴様は何者だ? このガキたちの手伝いをどうしてしている?」

 車の真っ正面にひげもじゃの……いわゆる人間姿のレイモンドが現れた。

 サイドウィンドウをコンコンと叩き、窓を降ろしたアルトは、

「ウィズ、ジャス。あとは頼んだ。俺たちは大学へ逃げる。調べ物の続きをする」

 小さくあたしに耳打ちする。そして、レイモンドがいるのにも関わらず、急発進した。

 レイモンドはあわててアルトの車をよける。

「アルトってば、肝心なときに、いつもボクらに放り投げるよな」

 ジャスはぼやく。

「あっ。そう言えば! その声は、あのとき、私を襲った闇使い! どうして、私を襲った! どうしてあの闇使いと会わせなかった! そして、なぜうちの生徒と一緒にいるんだ? もしかして仲間か? なぜ光使いとコンビを組むんだ」

「会わせなかった理由? そら、簡単だよ。ウィズが巻き込まれていたからだよ。それを助けただけ。ウィズが襲われただけでもややこしいのに、あなたが来たら、もっとややこしくなりそうだったから、先手を打った。あの闇使いはどうやら、キミに対して相当強い憎悪を持っていたから、キミに何をするか分からなかったし。んで、ウィズとどうしてコンビ組んでいるだっけ? 前にも言ったでしょ。ボクらは兄妹だよ」

 レイモンドの質問に早々に答えたジャスは、あたしと同時に戦いに備えて構えた。

「ウィズ・ラピスラズリ! 一家の恥さらしと一緒にいるのは、恥ずかしくないのか?」

 レイモンドはジャスをけなす言葉を吐く。怒りで我を忘れそうになるけど、そこは落ち着いて、

「一家の恥さらし? は? あんたこそサルビア魔導術学校の恥さらしよ。人を使う力によって、さげすむなんて最低最悪よ」

 あたしは持論を冷静に吐いた。

「ガキが大人の……しかもプロの魔導術師に勝とうなんて何年早いと思っているんだ? そこの闇使いはともかく、ウィズ・ラピスラズリ……お前は……」

「そこって、どこ?」

 気がつけば、ジャスはレイモンドの首元に、闇の力で出来たアサシンが持つようなダガーを突きつけていた。

「何を!」

 レイモンドはそのダガーの刃を握った。ダガーは水のように溶ける。おそらく光の力で相殺したのだろう。焦った様子を見せたジャスは、三つ編みを揺らしながら、アクロバティックに一回転する。

「やるじゃないか!」

 驚きをかくすためか、ケラケラとジャスは笑う。

「はっ! 詠唱なしで、物質化できるなんて、信じられんな! ラファ大学にも、そこまでの技術を持った人物はいないぞ! 紅いガチャ目!」

 負けじとゲラゲラとレイモンドは笑う。

「邪魔な人間は……消す!」

 レイモンドの人間の姿がゆらゆらとゆらめき……そして光そのものになった。

 どうやら、あたしたちが常闇人とは気がついていないらしい。目の前の自分の欲望でいっぱいで何も考えていないようだ。

「その姿……キミがとりあえず光源人ってことは知っているけどさ、どうしてサルビア校をあんなに光を集めたのかい? そして、どうしてウィズを襲ったのかい?」

「たかが人間のガキのお前の知ったことか!」

 光の姿のレイモンドは、ジャスに向かって、光線を放った。

 アクロバティックにそれをかわすジャス。サーカスに行ったら、それこそヒーローになるんじゃないのかしら、と思いながらも、今、レイモンドはジャスに集中している。

 このうちに、レイモンドを拘束し、手がかりを吐かせる方法を……と考えていると……!

「妹がどうなってもいいのか! 光使いとはいえ、光そのものの力に人間が対抗できるとは思えないが!」

 気がつけば、あたしの身体は光の鎖で縛られていた。鎖はレイモンド自身のようだ。うう。いくら今の姿は有機体でカバーしていたとしても、常闇の人のあたしには苦しい。

「キミまでウィズを人質に取るんだね。どうなってもいいよ。ウィズならなんとかすると思うし」

 マイペース! 助けなさいよ!

 あたしは様々な怒りを抱きながら、渾身の闇の力を身体全体にみなぎらせた。

「たあああああっ!」

 あたしは大声をあげて、常闇の力を放出させた。駐車場が一瞬暗くなる。

 光の鎖のレイモンドは、聞いてはいけないような絶叫をあげた。

 自分が出した闇の力を吸収すると、あたしは喘ぎながら、へたり込んだ。

「お疲れ。とりあえず、レイモンドを吐かせよう。まったく、こいつったら素の姿で人間に擬態するなんて、正気の沙汰じゃないよね……。何を考えているんだか」

 ジャスはあたしに革の手袋の手を差し出す。

「あんたの手を借りなくても立てるわ! 助けなさいよ!」

「いやあ。ウィズの力を知っているボクが手出しできないよ」

 あたしの怒りはジャスの褒めているのかどうかわからない言葉でかき消された。立ち上がりながら、マイペースめと悪態をつく。

「どういうことだ……? 光使いであるウィズ・ラピスラズリがどうして……闇の力を……」

 人間の姿に戻ったレイモンドは、何かに気がついた顔をした。

「もしかして、オマエら兄妹は! おれを見張っていた理由は! 常闇人だったからか! そして、お前たちが……常闇の長の秘蔵っ子であるウワサのあの闇と光のフリークスか! だから闇の力が混ざっていたのか!」

「あー。とうとうバレちゃったか。そうだよ。ボクらは常闇人だよ。ちなみにフリークスはウィズだけだからね?」

「ウィズだけって言い方しなくてもいいんでないの? あんただって、その紅い邪眼、普通は持たないわよ」

「ひどいなあ」

「まあ、あたしたちの存在が光源人にも伝わっていることは分かったわね。イヤなものだわ」

 あたしたちはファイティングポーズを構えながら、軽口を叩きあう。

「常闇人なら! あははははは! 人間だから手加減してたが、そんなことをする必要などなかったのか! あはははは! 本気でやってよかったのか! あはははは!」

 再び光の姿になったレイモンドは、さっきよりも増して、光線を放ってきた。

 人間の服のあたしたちには結構厳しい戦いである。ブレザーの制服は動きにくい。よけるので精一杯だ。攻撃に転じることができない。

「ちょっと、服装チェンジするわよ!」

「ラジャ!」

 ジャスは簡単な詠唱を唱え、盾を作ると、あたしたちは指を三回鳴らした。

 盾が消え、紺色のジャケットと白いタイ、紺色のスラックス姿のジャスと、同じく紺色のケープ付き上着に白色のタイを付けたドレスを着たあたしをレイモンドは見ると、

「ふ。その常闇の装束……。そっちもやっと本気を出したか」

 高笑いをした。

「でも、その姿ってことは、後がないってことだ。やっとオマエらを消せる!」

 強い光がこもった光線をこれでもかってほどに打ってくる。せっかく、戦えるスタイルに変えたというのに、これでは意味がない。

「うう。この調子じゃ、やられちゃうね。ウィズ。盾をよろしく。こっちも攻撃を仕掛けなきゃ」

「そうね、一発やらなきゃ、やってられないわね。分かったわ!」

 あたしは手を広げ、大きく輪を描き、大きな闇の盾を作った。その盾にバンバン光が当たる。すぐに割れる様子はないが、耐えきる自信が正直ない。

「あたし、防御は下手なんだから、さっさと攻撃してちょうだい!」

「分かっているよ」

 ジャスは地面のコンクリートに手を置くと、バリバリと音を立てながら、闇の力を込めた。

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