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今日は明日の物語  作者: はしおとまひろ
2/12

正義の……闇使い?

 放課後、廊下を歩いていると、あたしは明るい茶髪をポニーテールにし、ひげもじゃのレイモンド先生に捕まった。捕まったって言い方は、厳密には正しくないのだろうけど、人と関わりたくないあたしにとって、捕まったとしか言えないぐらい強引に引き留められた。そして、あたしはレイモンド先生は自身の研究室に連れてこられた。安っぽい丸椅子に座らされる。

「ごめんね。おれのせいであんな目に遭わせちゃって」

 野太い声でそう言われ、瓶の牛乳を渡される。まったくそうだわよ、と言いたいところだったが、

「あはは……。まあ、これも人生経験かと……」

 言葉をにごし、牛乳のフタを開け、飲む。独特の香りと冷たさがのどをつたう。

 レイモンド先生は研究室の自身の椅子に座り、背もたれると、

「話じゃ、ウィズ・ラピスラズリ。黒子の服を着た闇使いがあなたを助けてくれたんだよな。でも、不思議なんだ。おれも恐らく同一人物の闇使いに襲われてね。ヤツは犯人とおれを会わせないようにしていたのだろうけど、なぜそんなことをしたのか、ワケがわからない。そしてまさかあんな騒動になっているとは思わなかった。本当に申し訳ない。あんな幼い闇使いに襲われて、しかも教え子に何もできなかった自分にふがいなさを感じる。犯人に会えば良かったかもな」

 あの大男とレイモンド先生はどんな関係なのだ? そして、あいつはどんな風にレイモンド先生を襲ったんだ……? いくつも疑問は浮かぶも、

「まあ、別の国では、『人生万事塞翁が馬』って、何があっても、終わり良ければすべて良しって言葉ありますし。無傷でしたから、それでいいんですよ」

 あたしは先生をフォローする。

「ははっ。ウィズ。あなたは本当に面白い子だ。成績は中の上だけど、座学とは違う知識が深い」

 あたしは渇いた笑いしかできなかった。まさか、『観察対象』のファーストコンタクトがこんなものだとは思っていなかったから。


「よう。ウィズ! 今から本屋に行かないか?」

 レイモンド先生から解放されたと思ったら、次はミリアムに捕まった。

「今、疲れているのよ。明日じゃ、ダメ?」

「ダメだ。新刊がでるから」

「一人で行きなさいよ。あたし、誰かとつるむの苦手なの」

「そんなつれないことを言うなよ」

 ミリアムに腕を掴まれ、そのまま校門へ向かった。


 まったく、オタク気質のミリアムに強く誘われたのを、断り切れなかった自分に嫌気がさす。

 木々が風にさわさわと鳴る。秋口で日が沈むのが早い。ずいぶんと薄暗くなっていく。

「さっさと行かないと、闇使いに襲われちゃうなあ!」

「だったら、明日でいいでしょ……」

「新刊は大事! 初回特典は命!」

 あたしの意見はオタク気質にかき消された。

 昨日、あたしが襲われた通りに来た。昨日と違って、時刻も違うためか、ずいぶんと静かだ。

「昨日、ここで人質になったんでしょ。ここまでおおごとになっていたなんてびっくりだよな。ウィズはすぐに寝ちゃったから知らないだろうけど、ニュースはそれ一色だったよ」

 ミリアムは楽しげに笑う。

「笑い事じゃないわよ。生きた心地がしなかったわ」

 あたしは深くため息をつく。

「あんなに大きな事件になっているとはね。ボクだってびっくりだよ。でも、ひどいよね。事件を解決したヒーローたるこのボクが報道されていないんだから」

 ギョッと横を見る。街路樹にぶら下がっているあの黒子がいた。ミリアムは絶叫するが、あたしはいつも通り、

「ああ! びっくりさせないでよ。助けてくれたのは感謝するわ。ありがとう。でも、あたしがひどい目に遭ってたのに、笑うなんてひどいわよ」

 と、黒子にツッコむ。

 黒子は地面に降りると、

「笑ってなんかいないよ。安心してただけさ。さすが、ウィズ。誰にも悟られないように足の筋力に魔導力を込めるなんて、すごいよ」

 クスリと笑う。

「一応、ほめられているって思っておくわ」

「素直に受け取ってよ、そこは」

 気怠げなあたしに、黒子は明るい調子だ。

「ウィズ! そいつ、闇使いだ!」

 ミリアムは腰が抜けたのか、座り込んで、震える手で黒子を指さしている。

「ウィズ! だから、そいつは闇使いだ! 気がつかないのか? 危ない!」

 そうだったそうだった。この街では、闇使いに対してかなり偏見が強いのだった。

「大丈夫よ、多分。誰も食べやしないわ」

「多分って……。自分の兄貴をもう少し信じてくれよ」

 黒子の「兄貴」という言葉に、

「え、ウィズ! あなた、光使いじゃないの? ウィズの兄さん、闇使いなの?」

 ミリアムは小動物のように震える。

「ああ、めんどくさいことになったわね。どうしてくれるの? ジャス?」

「とりあえず、彼女を落ち着かせる」

 黒子――あたしの兄、ジャスは頭巾をはずした。後ろを三つ編みにした黒髪がはらりと落ちる。そしていつも見慣れた優しい女顔が現れた。左目はあたしと同じ水色だけど、右目は紅い。この紅い右目をキラリと光らせ、

「寝なさい」

 ミリアムに命令した。

 ミリアムは、

「はい」

 と、答えると、そのままスゥと眠りについた。

「ウィズ、この子の下宿先はどこ?」

 ジャスは何事もなかったかのように、あたしに尋ねる。

「あたしと相部屋よ。でも、男子禁制だから……。というか、別にミリアムと一緒の時に来なくったって良いじゃないの? ややこしいことをしやがって! まあ、ともかく。あたしとあんたが一緒にいるところをミリアムに見られたら、もう隠せないわ。すべて話すしかない。いつか話そうとは思っていたけど」

「なら、ボクの部屋まで行こう。そこで、誤解……じゃなくて、これはなんだ? 何になるんだろうか? とりあえず、ボクらの正体を明かそう」

「そうね」

 ジャスの提案にあたしはのった。

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