ノイズ
ラジオを買ったはいいが、よくノイズが入るんだよ。
「どんなものか」と訊かれると説明が難しいんだが、番組表や音楽を聴いている時に、人の足音とか、話し声とかが聴こえるんだよなぁ。話し声については、何言ってるのかまでは分からない。
ただ、何となく誰かが話してるって感じだ。
ラジオ自体はそんなに古いものじゃないし、ノイズ以外は至って普通なんだ。むしろ、音も良く聴こえるし、機能も色々あって便利だから、愛用しているよ。
この前も、天気のいい日だったから、公園に散歩に行って、ベンチでぼーっとラジオを聴いてたんだ。
暇だったから、野球の実況を聴いてたよ。
特に興味はないんだけどね。
すると、またノイズが入ったんだ。
あのぉ、ほら、テレビの砂嵐みたいな、あんな感じのやつだ。
壊れてんのかなぁと思って、一度電源を消して、付け直したんだ。
すると突然、大音量でFAX音が聞こえてきたんだ。びっくりして跳ね上がったよ。
でも、なんでラジオにFAX音なんか入るのかって、疑問だったね。テレビ局が間違えたのかと思って、とりあえずその日は家に帰ったよ。
今思えば、そうして自分を納得させたかったんだろうね。
家に帰って、何となく疲れて、椅子に座ったんだが、後ろから、あのFAX音が聞こえたんだ。
俺はまた跳び上がった。ビビりだよなぁ。
自分でも情けないよ。
しばらくしてFAXが送られてきた。
それが気味の悪い変な紙でさ、見知らぬ女のモノクロ写真がデカデカと載ってたんだ。俺は何となく血の気が引いて、捨てようと思ったんだが、なんだか良くない気がして、とりあえず机に伏せて置いた。
そこからしばらく動けなかったよ。
そもそもこの女は誰なのかも知らないし、変なことをしでかした覚えもない。女はどこにでもいそうな感じだったけど、知らず知らずのうちに何かやらかしたのか…。
とにかくその日は早く寝た。疲れてたからね。
それから、相変わらずラジオの砂嵐はやってきた。毎日聴いてるせいか、だんだん音が大きく聴こえるようになってきたみたいだったよ。
でも、しばらくして気づいたんだけど、
あれ砂嵐かと思ってたんだけど、雨の音だったんだ。ザーザーってね。
それに気づいて、もっと気味悪くなってさ、何で雨の音なんか聞こえてんだよってね。
雨の音とFAXの女と、何か関係があるのかなって気になったんだが、それから何もなかったから、FAXはそのまま捨てたよ。呪われたら嫌だなと思って、ちょっと気にはなったけどね。
ところで、とある日のことなんだけど、その日は朝から土砂降りでさ。休日なのに、どこにも出かけずに家にいたんだ。
まあ、家でのんびりするのも良いかなって思ってね。
何となく窓を見ると、顔と両手を窓に当てつけた女が覗き込んでいた。
そうだよ、あのFAXの女だ…
俺は、あんまりびっくりしたんで、飛び上がって叫んだ。
急いでカーテンを閉めて、警察に通報した。
女は窓を叩き割ろうとしていたけど、俺は電話しながら、机とか椅子とかを持ってきて、窓を塞いだ。
俺はパニックになって、警察にとにかく早く来いと怒鳴ったよ。
…あの状態なら、誰だってそうするよ…警察の兄さんには悪いことしたと思ってるけどさ…
女は捕まった。
幽霊じゃなくて人間だったってのが、唯一の救いかも知れないね。
人間は人間でお化けより怖いかも知れないけどさ。
まあ、警察が話すには、女は同じ会社にいる20代で、どうやら俺が好きだったらしい。いわゆるストーカーって奴だな。
ずっと顔写真を送りつけているのに、一向に返事がないんで、直接来たって話だ。俺の番号と住所は会社で調べて、わざわざここまでやって来たらしい。
好きになってくれるのは嬉しいが、俺はすっかりトラウマになっちまったよ。
にしても、あのラジオの雨の音は何だったんだろうな。
女の執念がラジオのノイズと化したのか。それともノイズを通して、ラジオが俺に危機を教えてくれたのか。
まあ、どっちにしても、もう二度とあんな気味の悪いことは嫌だね。
今でもラジオにノイズが入るたびに、またあの女が来るんじゃないかって、血の気が引くよ。
これまでも短編でちょっとしたホラーを書いたことはありましたが、本格的に書いたのは今回が初めてです。
「ラジオにまつわる怖い話」ということで、どんな恐怖が面白いか色々考えていたのですが、
なんだかんだ、現実が一番恐ろしいと思い、今回のストーリーを考案しました。
小説は初めての投稿となりますが、
主人公の落語家のような柔らかな語り口とノイズ音の組み合わせを楽しんで頂けたらと思います。
お読み頂き、ありがとうございました!




