誰か、作って下さい ~夢の薬~
私の最初で最後の本<「美しい心」と言ってくれた>は、この二月をもって、書店から消えました。合わせて、電子書籍も終了です。契約が終わったので、ここに書いていこうと思います。
先ずは第一弾。これは、ほとんど実話(笑) あの日のことを思い出します。もう、ほとんどの方々が、亡くなりました…
「あ~やんなるわ、まったく。あっちこっち痛いし、しびれている感じはずっとだし、あ~。さっきなんか、ちょっと速く歩いただけで、『走っては危ないですよ』だって。走れませんから、私」
「そうよね~あたしなんか、かけっこは一番だったのよ。それだけが、自慢だったのに。歩くのがやっとだなんて……歳取ったってことよね、ああ、やだやだ」
「私達はまだいいわよ。あ~なったら、おしまい。トイレも誰かを呼ばなくちゃいけないし。その内オムツの中に……あ~やだわ」
「もし、転んだりしたら、ああなるのかしらね、骨を折らないとしても、いずれはああなるのよね」
「あ~やだ。夢も希望もなく、あるのは厳しい現実のみ」
「ほんと、ピンピンコロリがいいわよね」
「そうそう、それそれ」
「どっかにないかしら、ピンコロ薬」
「今飲んでいる薬をやめるのはどうかしら」
「あんなの、飲んでも飲まなくても変わらないんじゃない」
「私のは、めまいの薬や血圧に便秘、胃薬やら……大事な薬だけど、飲まなくても、すぐには死ねないでしょうね~」
「まあ、死ぬために飲む薬なら、いろいろあると思うけど。そんなの、飲む勇気ないし、第一、悔しいわよ、あたしが、いなくなればいいと思っている……ん、なんのみかえりもなく、思い通りになんか、なってやるもんですか」
「そうよそうよ、こっちだっていい思いをしなくっちゃ。だって、死んであげるのよ」
「え~例えばさ、今残っている余命というか、エネルギーみたいなものを、ぱっと使っちゃう。これから先、たらたら生きながらえて使用する分をさ」
「下の世話をされてだよ、嫌なことを『やめて』とも言えなくなって、口の中に無理くりドロドロのグチャグチャに混ざったものを突っ込まれる」
「そうよ、そんな命なんか、いらないわ」
「又、温泉旅行とか、行きたいな~何にもないじゃない、ここに居たら。私達は、夢すら見るなってこと?残酷な余命なんかいらない。そんなもの、たたき返してやる。望んでなんかいないのよ、みじめで迷惑をかける命なんか」
「私達に残っているエネルギーをかき集めて、私達の望みを叶えられる身体に変えてほしいわ。短くて、結構。花火よ、花火」
ぱっと楽しんで、電池が切れたらおしまい。いいわね~その前に終活もしておかないとね、ドレスとか用意したり」
「なに、棺桶用?」
「そうよ、お花もリクエストしとかなくっちゃ」
「ピンコロ薬を使うと、寿命分のエネルギーを使い果たして死ぬわけだから……バンパイアみたいにさ~死顔、超ばばぁだったりして」
「やっだ~、さっさと焼いてもらおっと、ドレスを買うのは、ミツコさんの死顔見てからにするわ」
「なんであたしの方が早く死ぬのさ」
「え!十五も違うのよ。昔なら親子じゃないですか。順番ってものがあるでしょ」
「そりゃ、わからないよ。あたしは若い頃鍛えていたんだから」
「はいはい、せいぜい、ピンコロ薬が開発されるまで、頑張って下さい」
「死ぬのが早いか、薬が早いか。明日もし起きてこなかったら、うらやましいだろ~」
「あやかりたい、あやかりたいって、拝んであげますよ、先輩」
「は、は、は」
午後の日差しで暖かい、廊下のソファーに集まり、お昼に飲みきれなかった冷えたお茶を手に手に抱え時間は。おやつに向かって、ゆっくりと過ぎていく。
この話から、<「新党」立ち上げました>を書きました。こちらの方も、読んでみてくださいね。それが私の答えです。