72話 告白前日譚(1)
ハルトマンが風呂から出ると、招いた覚えのない客が自分のベットに寝ころびながら本を読んでいた。
「お邪魔してるよー」
招かざる客、ジークは本から目を離してこちらを見ると大きなため息を吐く。
「服ぐらい着ろよー」
「ここは私の家でお前は侵入者。私がどんな格好でいようとお前には関係ない」
とはいえ男の前で裸でいる趣味はないため、さっとスラックスを履きの薄黄色のシャツを着た。
「おっ、いい色のシャツだねー」
「お前は本当に何しに来たんだ……」
人の家に勝手に入り込んだ挙句、服を褒めてくるという謎の行為にハルトマンはあきれながらも、棚から飲み物を2本取り出すと1本をジークにやり、自分は物書き用の椅子を引っ張り出して背もたれを前にしてまたがるようにして座る。
2年前に激安寮から追い払われたあともハルトマンとジークの中は続いていた。どちらかといえば今の様にジークがハルトマンの家に押し入るという形が多いのだが。
「毎回毎回、鍵を掛けてあるはずなのになんで平然と部屋に入ってくるんだ」
「うーん、魔法でちょいちょいっと?」
「騎士を辞めて泥棒にでも就職するつもりか」
ジークは目をそらしながら手に黒い靄を出して針金のような形にする。どうやらこれで毎回開けているらしい。
「で、何か用があって来たんじゃないか」
「そうそうー。ちょっとお願いがあってね」
ジークは空間収納袋をごそごそと漁ると、1つの拳大の大きさの小包と1つの手紙を取り出した。重要なものなのか、どちらも封蝋がしてある。
「これをヴェンに渡して欲しいんだよね」
「なんでわざわざ私に? 自分で直接渡せばいいじゃないか」
「なるべく早めに渡したんだけどヴェン今忙しいらしくてさ、明後日以降しか時間が取れないんだってー。だけど俺、明後日から実家帰るからさー。渡しといてくれない?」
「別に私じゃなくても、業者を頼ればいいんじゃないか?」
「それがあんまり表に出したくないんだよねー……。知らない人の手に渡したくないというかー……」
「……やばいものじゃないよな」
「アハハー」
ハルトマンが睨み付けるとジークは分かりやすく、あからさまに目をそらした。
「勘弁してくれよ……。変なことに巻き込まないでくれ」
「いや、俺もどちらかといえば巻き込まれた側なんだよー。助けてくれよー、一緒に巻き込まれてくれよー」
ベッドから這い出て縋りつこうとしてくるジークの頭を足で踏んで床に押さえつける。昨日掃除したばかりなので床は綺麗なはずと考え、更に力を込める。
「とにかく頼むよー」
ひと悶着の末、ハルトマンは断り切れずしぶしぶ小包と手紙を受け取った。中身については何も聞かず、あくまでヴェンツェルに届けるだけということで決着がついた。




