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67話 はじまり(2)

 目の前に置かれた石を見て、蒼は言葉を失った。無意識のうちに似た色合いの石が入った胸ポケットに手を当てながら、息をするのも忘れその石を凝視する。


 そんな蒼の様子を見てテオバルトは胸を痛めながらも、この石が見つかった経緯を説明するため口を開いた。


「これはヴァイデンライヒ領で襲われた村の近くで発見された魔石だ。激しい戦闘があったようで、至る所に焼け焦げた跡や地面がえぐられた跡、多数の血痕があった。この魔石はその戦闘跡地で見つかったものだ。魔石を見るに、闇属性かつ高魔力持ちの者の魔石だと思われる。ちょうど該当する人物がヴァイデンライヒ領に向かってから行方不明になっている」


「ジーク……」


 蒼がかろうじてその言葉だけ絞り出すとテオバルトは頷く。


「おそらく村に火を付けて回っていた奴らと戦闘になったのだろう。現場から複数の高威力の魔法の痕跡が見つかっていることから、複数人を相手にした結果敗れたのだと調査結果から結論付けた。でなければ、あの優秀な者が負けるはずがない」


「人間の魔石にしては小さすぎるのではありませんか!彼が持っていた魔力石かもしれませんし、彼が死んだと結論付けるにはいささか早すぎるのでは」


 藁にもすがる思いで言い寄るが、テオバルトはすぐに首を振りその言葉を否定する。


「確かに人間の魔石だと最低でも拳ぐらいの大きさはある。しかし、現場に高火力の火魔法の痕跡がある事から、魔石化が進む前に遺体を燃やされたのだろうと結論付けられた。すまない、アオイ。ここで希望的観測を言うのは簡単だが、お前が騎士である以上、親しき友人の死を見送る場面はこの先いくらでもあるだろう。慣れろとは言わないが心構えはしておくべきだ」

 

 蒼はその言葉に黙ってうなずく。


「その魔石はアオイの好きにしていい。ヴァイデンライヒ領は襲撃の混乱から行方不明の者が多くて、彼の家族の安否も分かっていない。近しい友人だったアオイが持っていなさい」

 

 

 蒼が魔石を受け取り部屋の外へると、そこには心配そうな顔をしたユーリが待っていた。こちらに寄って来ようとするユーリを首を振って制止して、そのまま脇をすり抜け自身の部屋へと向かった。



 使用人に暫く一人にして欲しい、部屋に誰も通さないで欲しいと告げて、部屋に閉じこもる。

 日は既に落ちており、部屋は月明かりが照らすのみだったが、照明をつける事もなくそのままベッドに横になる。

 そのままの体勢で、よく似た色をした2つの魔石を並べて見比べれば、この魔力の持ち主が同一人物であろうことは蒼でも容易に想像が付いた。


 衝撃が強すぎたのか、現実を受け止め切れていないのか。悲しいとは思っているはずなのに不思議と涙は出てこない。

 その代わりに連邦国家に対する激情が蒼の中で渦巻いていた。魔力が漏れ出て蒼の吐く息が白くなる。

 白くなった息を見ていささか冷静さを取り戻した蒼は、大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせると状態を起こし、鏡の前まで移動する。そのままたどたどしい手つきでピアスを付け、鏡の中の自分を見た。


「似合わないと思ったが、付けてみると存外しっくりくるものだな」


 力なく微笑むと、鏡の中でぶら下がった薄紫色の石が揺れて光る。それを見て満足した蒼は箱を取り出す。中には石の嵌っていないピアスの金具と、蒼の瞳と同じ色をした透き通った瑠璃色の石が入っていた。そこにテオバルトから渡された魔石を入れる。


 その箱を胸に抱いたまま蒼は再びベッドに横になり、目を閉じた。

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