66話 はじまり(1)
業務が終わった蒼は脇目も振らず、ヴァイデンライヒ邸の扉をくぐる。上がる息を整えるのもそこそこに、テオバルトの私室へと向かう。ノックをし扉を開けばそこには既にテオバルトとユーリがそろっていた。
「アオイ来たか。状況は聞いているな」
「多少は」
蒼は軽くうなずきながら、静かに答える。蒼を見るテオバルトの表情は暗い。
「聞いているかと思うが、国境に面しているヴァイデンライヒ領の領主邸と一部の村が襲われた。どちらもヴィクルンド連邦国家側からの攻撃だと思われる。今回の襲撃で領主を務めていた俺の弟が重傷を負った」
ヴァイデンライヒ領が襲われたことは知っていたが、親類が負傷したことまでは知らなかった蒼は思わず息を呑む。
「義伯父上は大丈夫なのでしょうか」
「幸いにも命に別状はない。しかし足を負傷し、領主として前線に出る事は不可能なため、俺が領主代理として立つことになった。これは俺の意志だけではなく、皇帝陛下の命でもある。なので俺は騎士団が出るよりも早くここを立つ。今後の事は俺に代わり、第1師団の副師団長から指示があると思う」
少なからずショックを受けている蒼に対し、テオバルトは淡々と領内で起こったこと、現在の状況を聞かせる。
最初は村への放火が始まりだったらしい。国境近い村が次々に燃やされ、避難するために領民が押し寄せる混乱の最中に領主邸で爆発が起きた。幸い、その爆発で死者は出なかったが、領主であるテオバルトの弟が怪我を負った。それを皮切りに今度は村が襲われ始める。それまでとは違い火を付けられるだけではなく、見境なく領民が殺されている状況だそうだ。現在は領軍が対応している状況で、テオバルトはそちらの指揮を執るため一足早くヴァイデンライヒ領へと向かうことになる。
「皇帝陛下はこれを宣戦布告とみなし、ヴィクルンド連邦国家に攻め入る事を決定された。遠からず、お前たちにも召集がかかるだろう」
「覚悟は出来ています」
蒼の言葉に賛同するようにユーリも頷く。
「俺の立場から言うのもあれなんだが。くれぐれも無茶してくれるな、これはお前たちの父としての言葉だ」
話が終わりユーリが先に部屋を出たので蒼がそれに続こうとすると、テオバルトに呼び止められる。先程の話をする時より顔色が悪くなったテオバルトを見て、嫌な胸騒ぎがした。
「アオイ、落ち着いて聞いて欲しいのだが」
そう言いながらテオバルトは机の上に布に包まれた何かをコトリと置いた。
テオバルトの手で丁寧に布が取り除かれると、そこには薄紫色をしたコインほどの大きさの石が置かれていた。
最近忙しくて短めですが、よろしくお願いします。




