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63話 状況の変化(3)

「姉さまは怖くないのですか」


 情報開示されてから数日後。

 たまたま時間が合った琥珀と蒼は夕食後にゆっくりしている最中に、唐突に琥珀から問いかけられた。


「急にどうしたんだ? 戦地に行くのは怖いかもしれないが、私が必ず琥珀を守るから安心して欲しい」


 不安に駆られたがゆえの発言だと解釈した蒼は、琥珀が少しでも安心できるようにと表情を和らげながら、優しく丁寧な物言いになるよう努める。

 後方支援がメインになるとはいえ普段戦いとは無縁である以上、琥珀が不安になるのは蒼にも分かる。


 ただ、その返答は琥珀には想定外だったようで、聖女となってから心がけていた丁寧な言葉遣いも忘れ、慌てて否定をする。


「いや、そうじゃなくて。まあ、怖くないといえば嘘になっちゃうけど、そうじゃなくて」


「不安なのは分かる。大丈夫、私も他の騎士たちも優秀だ。琥珀が危険な目に遭うことは無い」

 

「そうじゃなくてー」



 蒼が琥珀の言いたいことを掴みかねていると、開けたままだった扉からクリスティアーネが入ってくる。


「コハク、言葉遣いが乱れていますよ」


「義母さま」

 

 助けを求めるようにクリスティアーネを見る琥珀に対して、心配はいらないとでもいうように頷くと、琥珀の隣の席に座る。使用人に自分の分の茶を用意するよう頼んだ後、蒼のほうをまっすぐ見つめながら口を開く。


「琥珀はね、貴女を心配しているのですよ」


「私をですか」


 琥珀が何故自分を心配するのかが分からず、蒼が首を傾げる。それを見たクリスティアーネは小さくため息をつくと、理由を説明してくれる。

 

「今の貴女は立派な騎士ですが、それ以前に琥珀の姉でもあるのです」


「それはそうですが、今の私は琥珀はもちろんのこと、国民を守る使命があります。務めを果たす上で怪我などは仕方のない事でしょう。心配をして欲しくないわけではありませんが、多少は仕方のない事だと捉えていただきたいです」


「うちの男たちといい、貴女といい……。騎士としてのお役目がとても大切で立派なことだとは私も思います。貴女の志も素晴らしい。でも騎士である以前に、貴女は琥珀や私の大切な家族なのですよ。貴方が私達を守りたいという気持ちと同じぐらい、私達は貴女にも傷付いて欲しくないのです。貴方もですよ、ユーリ」


クリスティアーネが入口の方に声を掛けると、ばつが悪そうな顔をしたユーリが顔を出した。


「盗み聞きするつもりはなかったんですが」


「当然です。貴方もこちらに来て座りなさい」



 ユーリが座ったのを確認すると、クリスティアーネは言葉を続ける。


「騎士としての役割を全うしようとする意志はとても大事なことだと思います。他人を守ろうとする気持ちも。ただ、その半分くらい自分自身を大切にする気持ちも忘れないようにしなさい。心が折れそうになったら助けを求めなさい。戦争は貴方達が思っている以上に辛いものになるでしょうから」


 クリスティアーネはそこまで言うと、目を伏せる。


 

 蒼とユーリが何も言い返せないでいると、クリスティアーネが3人の顔を見渡しながら再び話し出す。


「大切な人が出来て結婚でもしたら、行動も変わるのかしらね」


 結婚というワードを聞き、クリスティアーネを除く3人は思わず目を背けた。


「無理に結婚させるつもりはなくて、今まで自由にさせていましたが……。まさか朴念仁の息子はともかく、可愛い義理の娘達まで浮ついた話がないとは……」

 

 心底困っているとでもいうように、頬に手を当てながらクリスティアーネは子供たちを見渡す。

 その視線に耐え兼ね、あからさまな言い訳と共にユーリは立ち上がった。


「そういえば、ここに来たのは蒼と訓練の約束をしていたからなのです。あまり遅くなると明日に響きますので、これにて失礼いたします、母上」


「そうでしたね、義兄上。では、私も失礼します」


 蒼は約束した覚えはなかったが、即座にユーリの助け舟に乗っかる。


「ずっとこのままはぐらかすのなら、ユーリと貴女達のどちらかで結婚してもらいますからね」


 クリスティアーネの言葉が聞こえないふりをしながら、ユーリの背を追う。

 裏切者とでもいうような琥珀の目線を背中に感じ、蒼は心の中で謝りながら部屋を出た。

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