62話 状況の変化(2)
「ヴェン先輩、連邦国家との戦争がいよいよ始まるって本当っすか?」
勢いよく開かれた扉から、これまた勢いよく部屋に入ってきたテレーゼは開口一番にそう述べた。
その場にいた全員の視線がテレーゼに集中する。
現在、蒼達は隊ごとに割り振られている部屋で会議の真っただ中。週一で行われるこれは琥珀が教会に居ない日に行われるため、本来であれば3番隊全員が集まるのだが、今の今まで一人足りなかった。
「遅れてきた上、開口一番がそれなのかい?」
「す、すみません! 戦争が始まると聞いて気になるあまり、後先考えず突っ走ってしまいました!」
「素直な所はテレーゼの美徳ではあるが、素直に謝ればいいというものでもない。次からは気を付けなさい」
「承知しましたっす」
少ししゅんとしながら席に着いたテレーゼを見届けて、ヴェンツェルは口を開く。
「やっと会議が始められるな。まあ、議題はまさにテレーゼが今言っていた通りで、近々停戦協定が破棄が破棄されることはほぼ確定したそうだ。一応騎士団のみの極秘事項で有るはずなのだが、テレーゼはどこでその情報を聞いてきたんだい?」
「第3師団の知り合いの騎士に聞いたっす。近々戦争が始まるから、本格的に戦が起こる前に希望者は里帰りができるって」
「騎士から聞いたのであれば問題ないな。まあうちの隊は少し開示が遅かったからな」
「確かに義父上から3日前くらいに聞いたな……。なんでうちの隊だけ遅いんだ?」
「里帰りが許されるような時間があるってことは、戦争が始まるのは今日明日直ぐにという訳ではない」
それに、と言葉を続けながらヴェンツェルはテレーゼの方を向く。
「テレーゼは里帰りしたいかい?」
「いや、一生帰りたくないっす。死んでも嫌っす」
実の父親と兄に売られそうになっていたという経緯があるテレーゼは、全力で首を振る。
「フォルとノイは」
こちらの双子も静かに首を振る。物心ついた時から孤児院におり、その環境も良くなかったが故に孤児院長にも会いたいと思わないのだろう。
ヴェンツェルはそのまま無言で蒼に視線を移す。ヴァイデンライヒの家族はすぐ傍に居るし、もちろん日本に帰れるわけもないので、蒼も首を振る。
「とういうことだ。アオイ嬢が言うように3日前には通達が来ていたが、今日の会議でいいと判断した」
「ヴェンはゼッケンドルフ子爵に会いに行かなくていいのか」
ゼッケンドルフ子爵はヴェンツェルを拾い、後見人もしている人物だ。蒼の疑問にヴェンツェルは首を振る。
「後見人をしていただいて感謝はしているし、仲も良好ではあるが所詮他人だよ。アオイ嬢のところのように家族という訳でもない。私はすでに一人立ちをしているし、あちらにはあちらの家庭がある。特に会いに行こうとは思わない」
「そうか」
ヴェンツェルがそういうのであれば、蒼からは何も言えない。
「うちの隊は本格的な指示があるまでは平常運転だ。ただし、準備は怠らないようにしておきなさい。武具類の整備はもちろんだが、魔力石や魔法具などもしっかりと準備しておくように。特に私もそうだが、アオイ嬢は年齢や経験年数からも前線に配置される可能性が高い。気を引き締めておくように」
「ああ。いつも通り責務を全うしよう」
気を引き締めようと思うことはあっても、特に不安感や恐怖は感じなかった。




