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61話 状況の変化(1)

「はぁ……急に暇になりましたね……この間まではかなりの頻度で魔獣討伐依頼が来ていたのに」


 そう言いながらテレーゼはしゃがみこんで地面に絵を描いて遊んでいる。

 ノイとフォルの双子は琥珀の護衛任務、ヴェンツェルも席を外していた。蒼とテレーゼは教会内の広場で自主訓練をしている。ヴェンツェルも後から合流予定だった。


 蒼はサボっているテレーゼにあえて声はかけず、自身は黙々と素振りする。ただ、素振りをしながらもテレーゼが言った言葉の事を考えていた。



 

「随分と暇そうにしているね、テレーゼ。素振りは完璧ということか。なら体力作りのために教会周りを走ってきなさい」


「あ……えっと、ヴェン先輩。これはで……」


「走ってきなさい」

 

「……ハイ。イッテキマス……」

 

 いつのまにか近づいてきたヴェンツェルは有無を言わさない。テレーゼはしかなく、愛用の戦斧を担ぎとぼとぼと教会外へと向かった。


 

 その様子を横目で見送ると蒼は刀を振る手を止め、ヴェンツェルの方へと顔を向ける。


「テレーゼに擁護するつもりは微塵もないが。確かに、一時はあんなに来ていた凶暴化した魔獣の討伐依頼が、ぱったり来なくなったな」


「全体的に数自体が減っているようだよ。帝国直属騎士団の方で手が足りる位にね。ようやく狩り尽くせたのか、それとも別の理由があるのか。やはり理由は判明していないようだけど。そもそも騎士が引き抜かれすぎて教会騎士団はただでさえ人手不足なのに、その上こちらに仕事を回してくるのはいかがなものかとは思うけどね」


 器用にハルバードをくるくると回して弄びながら、ヴェンツェルは答える。帝国直属騎士団に思うところはあるようだが、その仕事を貰ってきたのはほかならぬヴェンツェルである。



 蒼が視線を上げ、辺りを見渡しても広場には二人の他に人はいない。教会騎士団に入ってすぐの頃であれば、この広場を利用している騎士もそれなりに居たのだが、今は日常業務を回す程度の最低限しかおらず、今この場には二人しかいない。


「随分と人が減ったな」


「あのアルトゥール猊下すら、頭を悩ませるぐらいだ。帝国直属騎士団にも皇帝陛下にも抗議を入れおられるそうだが、善処するという回答だけらしい。それどころか上層部の方では、帝都教会を廃して城内に移設する計画もあるのだとか」

 

 独り言のつもりで吐いた言葉は、ヴェンツェルの耳にしっかりと届いていたらしい。

 

「この教会を移動させる? それに何の得があるんだ」


「重要機関を1か所に纏めることで、動かせる騎士を増やすのが目的らしい」


 あまり大きな声で話すことではないようで、ヴェンツェルは蒼に近づくと耳に顔を寄せる。


「近いうちに停戦協定が破棄されるらしい」


「なっ……」


「すでに連邦国家の仕業だと思われる事件が多発しているようだ。国境付近の村が被害に遭っている。ある村は焼き討ちに遭い村の家屋が全焼。違う村では村民全員が謎の失踪を遂げている。連邦国家側はこれらについて関与していないとの声明は出しているが、口だけなら何とでもいえる。殆どの事件が国境に面しているヴァイデンライヒ領で起こっているとのことだから、アオイ嬢の義父であるテオバルト卿に聞いた方が詳しい話を聞けるだろう」


 そこまで言い終わるとヴェンツェルは蒼から離れる。


 ヴァイデンライヒ領は帝国の南側に大きく領地を広げており、連邦国家と陸続きで面している唯一の領なので、真っ先に戦場になるといわれていた。

 最近テオバルトが忙しそうにしているのは蒼も知っており、てっきり凶暴化した魔獣の対応に追われているのだと思っていたが、まさか裏でそんなことが起きていたとは。


 すっかり考え込み黙り込む蒼を見て、ヴェンツェルはさらに続ける。


「怖気づいてしまったのなら引き返せるうちに引き返した方がいい。まだ公にはなっていないから、騎士を辞めようと思えば辞めれるだろう。アオイ嬢が騎士を辞めたとしても私は責めないし、全力で君も聖女様も守ろう。ただ、願わくば君には聖女様を守る同志でいて欲しいと思ってはいるが」


「いや、特に怖気づいたわけではないんだ。この4年で散々魔物も人も切ってきたわけだし。ただ純粋に、話し合いなどで回避できたりしなかったのかと思って」


「元々、にらみ合いが続いていて更に燃料が投下されたとなれば、もう衝突は回避できないだろう」


「そんなものなのだろうか」


「戦争とはそんなものなのだ。少しの意見の違いが大勢の命を奪う。そして不利益を被るのは末端のものだ」


 そう語るヴェンツェルはいつもと同じ表情だったが、蒼の目には心做しか寂しそうにも見えた。

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