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60話 魔石の行方

「……さま…………姉さま」


 揺さぶられていることに気付き顔を上げれば、心配そうな顔をした琥珀がいた。

 どうやら蒼はいつのまにか寝てしまっていたらしい。勤務終了後とはいえ、気を抜きすぎだと心の中で反省した。


 最近色んな事が立て込んでいて忙しいこともあるが、ヴェンツェルに渡した魔石の事が気になり、蒼は少し寝不足気味だった。


「すまない、琥珀」


「最近お疲れですからね。あんまり無理をしないでください」


 すっかり聖女らしい言葉遣いになった琥珀に少し寂しさを覚えながら、蒼は立ち上がる。


「勤めは終わったのか?」


「はい。最近は時間があれば魔力石を作っているので、デスクワークが多くて身体がばきばきです」


 そう言いながら伸びをする琥珀を見て、中身は変わらず可愛らしいなと口元が緩む。

 


 お互いに忙しくなかなか時間が取れなかったが、ようやく今日一緒に出かけられる。

 流石に妹と出かけるのに騎士服はどうかと思い、珍しくスカートに着替えてきている。最近は忙しくてめっきり私服を着る事がなかったので、久しぶりのスカートに心許なさを感じていた。服装こそ貴族の子女ではあるが、護衛も兼ねているので物々しい刀などはそのままだ。

 


「じゃあ行こうか」


「はいっ」


 蒼が手を差し出せば、迷いなく手を取る琥珀は笑顔を絶やさないことから、この時をとても楽しみにしていたころがわかる。


 今日は姉妹水入らずで難しい事は考えず、純粋に楽しもうと思った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 店員に案内された個室に入ると、そこには見知った顔の人物が一人で待っていた。

 

「ごめんごめん、遅くなったー」


「いや、忙しいところ呼び出したのはこっちだ」


 特に悪いとは思っていないが、口では一応謝っておく。 

 個室だしヴェンツェルだけだしと、上着を脱ぎタイも緩めて体面と共に脱ぎ去る。

 普段の警備業務に加えて凶暴化した魔獣の討伐なども増えており、ジークはくたくただった。

 

「ヴェンツェルから誘ってくるなんて珍しいからさー、頑張って時間空けたよ。まさかこんな高級店に呼び出されるとは思ってなかったから、着替えずそのまま来ちゃった」


「第1師団の騎士服ならばどこも断られないだろう」


「そうだけどさー。忙しすぎて昼めし食い損ねてたから、何か食べさせてー」


 とりあえず、腹に何か入れないと集中もできない。所作には気を付けながらも、かなりのスピードで皿を空けていった。



 あらかた満たされ食器も片付けられた頃に、ジークは気になっていた呼び出された理由について尋ねる。


「いやー、満足満足。ところでさー、こんなところに呼び出してどうしたの? てっきりアオイちゃんも来るんだと思って期待してたけど」


 ジークが呼び出されたのは、要人の密会にも使われるような高級レストランだ。しかも、ご丁寧に個室まで取っており、友人と楽しくご飯を食べるだけに使うようなところではない。


「アオイ嬢は今日は聖女様と出かけているよ」


「ふーん。で、俺に何の用なのさー。こんなお貴族様の密会に使うような店に呼び出しちゃって。まさか悪だくみでもするの」


「そうだ。悪だくみだ」


 まさか冗談で言ったことに乗ってくるとは思ってなかったので、思わぬ事態に身体をこわばらせる。


「昨今の凶暴化した魔獣騒ぎ、原因究明どころか数が増えていると思わないか」


「まあ、それは思わなくないけど……」


 それと悪だくみがなんの関係があるというのか。


「第4師団が調べているというが、全然進展がない」


「とはいってもなー。どうしようもないだろー」



 ヴェンツェルは笑みを深めながら、机の上にコトリと何かを置く。


「これを調べて貰いたい」


 机に置かれたのは拳より一回り小さい、赤色の魔石だった。ジークは嫌な想像が脳裏をかすめる。


「これは……?」


「件の凶暴化した魔獣の魔石だ」


 想像が当たっていたことに、顔をしかめる。

 

「第4師団にすべて提出しなければいけないものが、なんでここに」


「アオイ嬢に頼んで秘密裡に持ってきてもらった」


「アオイちゃんもこれに加担してるってこと?」


「いや、アオイ嬢にはやむを得ず魔石を取って来てもらったが、これ以上は関わらせるつもりはない。秘密を知っている者はなるべく少ない方が良い」


 それには同意する。やましい気持ちがなくともこれは横領に違いなく、規律違反に該当するだろう。蒼がこれ以上加担しないことに少し安心した。



「専門じゃないから大したことはわかんないと思うよ?」


「構わない。私では大したことはわからなかった」


「忙しいから少し時間をもらうよ?」

 

「最初からそのつもりだ。よろしく頼むよ」


 ヴェンツェルの秘密の共有相手に選ばれて、嬉しいような悲しいような複雑な心境になりながらも、普段あまり頼み事をしてこない友人に応えたいとは思う。


 ジークは魔石を手に取ると、ハンカチに包んで懐にしまった。

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