59話 教会騎士団3番隊(2)
「今回発生した魔獣はどうだった」
「どうも何も、いつもと変わらなかったよ。普段は温厚な魔獣が唐突に凶暴化して暴れ始めるという事象は変わらず、原因も不明だ」
外での任務から戻り部下3名を寮へと返した後、蒼は一人今日の報告をするためにヴェンツェルに向き合っていた。
報告といってもお互いに席に着き茶を飲みながら行っているので、堅苦しいものではない。
一通り報告を終えると大体そのまま雑談に入る。大体がヴェンツェルから魔法理論や兵法等の知識を教えてもらうという授業のようなものが多かったが、最近は多発している魔獣の凶暴化についての話題が大半を占めている。
「過去の資料をさかのぼって調べても、温厚な魔物がある日突然凶暴化するなんてことは今まで観測されていない。それが1度発生してからは、段々数が増えている。そうなると何か原因があると思うんだが」
「確かにそうだが……。第4師団で調べても原因がわからないものを、私たちが考えたところで何になるんだ? 私たちは所詮、帝国直属騎士団の手伝いなのだから原因究明はあちらに任せるべきだと思うんだが」
魔獣の凶暴化は日を追うごとに数がどんどん増え、発生場所も帝国内のいたる所に散らばっていることから、帝国直属騎士団はかなり忙しくしている。
そのせいでどの師団も騎士の増員を図ろうとし、新規で騎士を育てるよりも手っ取り早いと教会騎士団からの引き抜きが増え、その結果教会騎士団の人員不足に拍車がかかっていた。教会騎士団に勤めている身としてはいい迷惑である。
そうでなければ、まだ若いヴェンツェルや蒼が1つの隊を任されたり、ヴェンツェル個人が拾ってきた少年少女が騎士になるなど許されないだろう。
そうやって騎士の数を増やしても、教会騎士団に魔獣討伐依頼が回ってくるとあれば、事態はかなり深刻なようだ。
「そもそも私は対応にも納得がいっていないんだよ」
「死体の焼却処分のことか? 何が原因となっているかわからないから、魔石を取り出した後は焼却処分というのはおかしくないと思うが。まあテレーゼのように火属性を持っているものがいないと対応できない点は手間ではあるけど」
「確かに凶暴化した魔物の死体を食った魔物が凶暴化する可能性は、否定できないから正しくはある。だが数が減るどころか増している現状、効果があるとはいえない。それに魔物の凶暴化が最初に確認されてから既に2年近く経過しているのに、未だに原因も対策もわかっていないというのは、裏に何かの思惑がある気がしてならないのだよ」
ヴェンツェルの言いたいことがわからない蒼ではない。
「連邦国家との関係が悪化し、緊迫状態が続いている中での魔獣の凶暴化。何か裏があるとしか私は思えないんだよ」
国境付近の村や町が襲撃を受けるなど、元々折り合いが悪かった連邦国家との関係は悪化の一途をたどっている。
均衡はすでに崩れ、一つ大きなきっかけがあればすぐにでも停戦が解除されるだろう。
「そうだ。次に同じ任務が入ったら、私の所に魔石を1つ持ってきてくれ」
「提出が義務付けられている魔石を? それは規律違反になるのではないか。そもそも魔石は第4師団が調べているのに、素人の我々が見ても仕方が無いのでは」
「今までずっと第4師団で調べても進展がないのだから、今後も進展がない可能性が高い。確かに素人ではあるが、だからこそ見えないものが見える可能性もあるだろう。責任は私がすべて持つ。アオイ嬢は何を聞かれても私に指示されたと言えばいい」
「……わかった」
規律違反には納得がいかないが、この膠着状態を改善できるかもしれないのであればと感情を飲み込む。
「なるべく知っている者は少ない方が良い。隊の他3人にも気づかれないようにして、君が持ってきてくれ」
「了解」
第4師団で調べてもわからないものがヴェンツェルにわかるはずもないとは思いながらも、蒼は了承した。
その後すぐに同様の魔獣討伐依頼が来たため、蒼はヴェンツェルの指示通りに魔石を回収し、誰にも気づかれないようにそれを渡した。




