57話 訓練生最後の日(3)
ヴェンツェルの話は祝いの席で聞くには重すぎる気がしたので、3人は別の話題に切り替える。
「アオイちゃんとヴェンは教会騎士団に入るんだよね」
「そうだ。琥珀が教会の所属になる時点で教会騎士団に入るつもりだったし、そもそも訓練生として入団したのも教会騎士団に入るためだからな」
「愛だねえ」
「血のつながった、たった一人の家族だからな。そういうジークは第1師団か。第3師団に入るって言ってなかったか」
「そのつもりだったんだけどね。元々、騎士団には給金がいいから入ったけど争いごともあんまり好きじゃないし、それもあって研究者気質の第3師団がいいなとは思ってたんだけど、第1師団からスカウトされちゃって。結構悩んだけど、お袋が体調崩してるって連絡が来たから、給金がいい第1師団にした」
故郷の家族への仕送りを優先した結果、第1師団に決めたらしい。家族思いの彼らしい選択だと蒼は思った。
「選ぶ余地があってうらやましいな」
「ハルトマンは第3師団だっけ」
「そうだ。そもそも魔力量が少ないから、入れる団が限られていた。そんな中、第3師団は剣技と身体強化の魔法のコントロール技術を買ってくれてな」
ハルトマンのいう通り各師団には特色があるが、必ずしも能力が特化していないと入れないわけではない。魔法特化の第4師団でも魔力量が乏しい者は珍しくはないし、第1師団も魔法と剣技の両方に精通していないと入れないわけではない。事実、蒼の義父であるテオバルトは、魔力量はそこそこあるものの魔法の扱いがうまいとはいえない。ただ、それを補えるほどの剣技があるため、師団長の地位にまで上り詰めた。
ハルトマンも同期に蒼、ヴェンツェル、ジークという化け物クラスの実力者がいたから目立たなかっただけで、3人を除いた同期の訓練生の中では剣技はトップクラスだった。ただ、同期の中でも特に魔力量が少なく、どちらかといえば平民並みにしか魔力を持っていなかったため、いくら剣技が優れていたしてもエリートぞろいの第1師団を目指すには足りなかったらしい。
魔力量の少なさを克服するため、無駄のない洗練された魔力の扱い方が出来るようになり、そこを第3師団に買われたらしい。
その後も他愛のない話は続いたが酩酊したジークがうとうとし始めたため、解散する事になった。
会計をするためにヴェンツェルは店に残り、他3人は先に店の外へと出る。
外は冬に入るとあってかなり冷え込んでいたが、酒で火照った体には心地よく感じた。
うとうとしながら地面へ座り込んでしまったジークを横目に、ハルトマンは蒼と少し話す。
「今まですまなかった。八つ当たりをするように、自分のしがらみをお前にぶつけていたんだと思う。謝る事は自己満足にしかならないが、それでも最後に言っておきたかった。道が違えた以上、また肩を並べて戦うこともないかもしれないが、その時が来たら仲間として隣に立つことを許してほしい」
「もちろんだ。こっちも優柔不断なふるまいをしてしまってすまなかった」
「後、一つだけ忠告だ。ヴェンツェルは狂信者の気があるから、その辺りは少し気を付けたほうがいい」
その後すぐにヴェンツェルが合流し、そのまま別れを告げ解散した。
いつもならジークが蒼を送っていくところだが、酔いつぶれてしまったため、ハルトマンの肩を借りて帰っていった。代わりに珍しくヴェンツェルが送ってくれるという。ハルトマンの言葉が少し気になっていたが、同じ騎士団に入る以上、長い付き合いになるのだから気にしても仕方ないと、素直にヴェンツェルに送ってもらうことにした。
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しばらく会話もせずに人気のない暗い道のりを歩いていた二人だったが、ふとヴェンツェルの方から話しかけてくる。
「アオイは女神様と会ったことがあるんだろう」
「ああ。実は実地訓練の時も会ったんだ。まあ死に際の夢だったのかもしれないけれど」
「それは本当か! 女神様はなんと言っていたんだ」
いつもの笑顔が失せ、ただならぬ気迫で迫ってくるヴェンツェルに蒼は思わず後ずさりをしながらも質問に答える。
「に、二度目だったからか、もう来たのかと言われた。戻してやるから、こんなにすぐに死んではいけないと。後は本当かどうかわからないが、私の事を気に入っているといっていた気がする」
「なるほど」
そこまで聞いて、ヴェンツェルは我に返ったのか元の距離感に戻ったかと思えば、無表情のまま何かを考えこみ始めた。 いつもとは違うヴェンツェルに戸惑いながらも、邪魔をしては悪いと思い蒼から声を掛ける事はしない。
そこからは無言の時間が続き、気が付けばヴァイデンライヒ邸の前まで来ていた。流石に声を掛けないわけにはいかないのでためらいながらも、声を掛けた。
「送ってくれてありがとう。変な話をしてしまって、すまなかった」
そのまま門をくぐろうとしたところで、ヴェンツェルに腕を掴まれ止められる。
「アオイ。いや、アオイ様」
ヴェンツェルは跪くと蒼の手を取り、そのまま自身の額を付ける。
「女神様に寵愛されているアオイ様を、私は全力で支えよう。」
「か、顔を上げてくれ! いきなり、どうしたんだ」
「私は今も昔も女神様に忠誠を捧げてきた。女神様から直接言葉を頂ける方に忠誠を捧げるのは当然のこと」
「たまたま女神様に会えただけで、寵愛を受けてるなんて」
「女神様に直接会えるものなど、ほとんどいない。この国の教皇である皇帝陛下すら女神様の言葉が聞こえるとはいうが、直接会ったなどは聞いたことがない」
「だとしても、こんな頭を下げるようなことはしてほしくない。今まで通り、友として傍にいてくれ」
ヴェンツェルは少し考え込んだ後、顔を上げて立ち上がる。そこにはいつもの笑顔があり、蒼をまっすぐ見つめてきた。
「わかった。アオイが望むのなら今まで通りふるまおう。だが、いつでもアオイの力になる事は覚えておいて欲しい」
「あ、ああ。よろしく頼む。じゃあ、今度は教会騎士団で」
ハルトマンのいうことがなんとなく理解できてしまい、気まずさから足早にその場を立ち去る。
蒼の姿が見えなくなるまで、ヴェンツェルはその場にたたずんでいた。
1章はこれにておしまいです。
次に1時点の軽い人物紹介を挟んでから次章に移りたいと思います。
これからもよろしくお願いします。




