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56話 訓練生最後の日(2)

 一通り注文したものがテーブルに並び、さらに追加された酒瓶とグラスをもって宴会はスタートした。

 

「うわっ。お前らこんなにきつい酒、ずっとそのまま飲んでたわけ?しかも2本も空いてるし」


「別にたいしたことはない。それにいい酒は酔いにくいといわれているからね」

 

「確かにうまくはある」

 

 珍しくまともな意見を述べたジークだったが、すぐにヴェンツェルに丸め込まれる。

 蒼も酒に口をつけたが、あまりの辛さに思わず顔をしかめた。ただ、瓶も意匠が入っているような立派なもので、口に含んだ時の香りも芳醇で味わい深く、酒に疎くとも上等なものだというのは分かる。

 他3名はこの酒を受け入れていたからか、蒼も別の物は頼もうとはしない。その代わりグラスに手をかざし、魔法でいくつかの氷を出して少しでも酒を薄める作戦を選んだ。


「おおぉ、いい飲み方するね、アオイちゃん。俺にもそれやって」


 ジークがグラスを突き出してきたので、蒼は自分のグラスと同じように氷を入れる。ついでに、さりげなさを装いながら無言のままハルトマンもグラスを差し出せば、蒼も何も言わずに氷を入れた。



「いやぁ、アオイちゃんの魔法は便利でいいね」


「いや、自分でやっておいてだけど、こんなことのために使うのもどうかと思うんだが」


 蒼は手の平で魔力を弄びながら、ちびちびとグラスに口をつけている。

 それとは正反対にジークはグイっとグラスを傾け、一気に飲み干す。正直、ゆっくり飲まねば氷を入れた意味は薄いと思うが、今日ぐらい好きにすればいいと考えているからか誰も口を出さない。

 

「いやいやぁ、氷属性は生活面でも役立つと思うよ。正直な所、危険な騎士にならなくても、研究施設とか一般の商会とか、アオイちゃんならどこでも引く手数多だよ。このまま騎士辞めて俺のお嫁さんにならない?」


「すまないが、もう教会騎士団に入ることが決まっているから」


 ジークはすでに酔っているのか脈絡もなく、蒼に告白をした。当の蒼も酔いが回っているのだろうと決めつけ、深く考えずに苦笑しながらも即断る。


「考える素振りもなく振られちゃったよぅ」


「やめろ。くっつくな」


 ジークが隣に座っていたハルトマンに縋りつくも、直ぐに払いのけられる。本日のジークの絡み酒モードのターゲットはハルトマンらしい。


「いいじゃん、同じ寮のよしみだろー」


「おまえっ……!」

 

「同じ寮?」


「そうだよ。こんな時期に珍しく入寮してきたんだよ」


 蒼の疑問はごもっともで、ジークが現在暮らしているのは地方から来た平民訓練生御用達の格安寮。配属が決まれば給金も増えるので、殆どのものは配属が決まるこの時期に格安寮を出て各師団の寮に入る。訓練生以外でこの寮に残るものは、よほど金がないか物好きぐらいといわれている。

 ジークはそのどちらにも該当せず、住まいにお金をかける位なら、家族への仕送りや自分のために使いたいらしい。


「別に隠す必要もないだろう」


 やはり、ヴェンツェルはハルトマンの状況を知っていたのか特段驚きもせず、説明を促すようにハルトマンを見る。

 わざわざ言うつもりはなかったが、別に隠すことでもないので内心は恨めしく思いながらも仕方なく口を開く。


「配属が決まって自立できる目途が立ったから、実家と縁を切ったんだ。後ろ盾もないし安定するまではひっそりと格安寮でしのごうと思ったんだが、何処かの酔っぱらいのおかげで明かすことになってしまった」


「なるほどねぇ。どんな理由であれ、同じ寮なら家族みたいなものだし、仲よくしよう!」


「だから、くっつくな!」

 

「仲がいいようで、何よりだ」

 

 ハルトマンはくっついて来ようとするジークを再度引きはがし、自分に矛先が向いていないことをいいことにそれを見守るヴェンツェル。

 混沌とした空気を変えるべく、蒼は別の話題を振る。


「そういえば、ハルトマンは剣を変えたんだな」


 ハルトマンの腰には以前使っていた無骨で飾り気のない直剣は無い。代わりにぶら下がっていたのは、繊細な装飾が施された細剣だった。

 そう言う蒼の方も、メインの刀こそ変わっていないものの、先日のユーリの暴走により大分装備は変わっているのだが。

 

「ん?ああ。配属が決まった祝いにと姉上からもらったんだ」


 やわらかい表情をしながら剣の柄を撫でる。そこには以前のようなとげとげしさはなく、蒼は少し安心する。


「あれ?実家と縁を切ったんじゃなかったの」


「姉上は他家に嫁いでいるから、実家とは関係ない。そもそも姉上と縁を切るつもりもない」


「貴族は複雑なんだなぁ」


「私も琥珀とは仲がいいと自負しているし、ヴァイデンライヒ家とも良好な関係を築いていると思っているよ」


 ジークは今でも仕送りをしているくらいなので、家族仲は良好である。蒼も向こうにいた頃も、こっちに来てからも家族関係は良好だ。

 3人の視線は、自然と残りの一人へと集まる。

 

「私かい?私は厳密に言えば貴族ではないし。そもそも、今も昔も家族がいたことないから、よくわからないな」


 割と重い話をさらりと変わらない笑顔で答えられ、3人は何とも言えない気持ちになった。

あともう一話で終わる予定です。

もう少しだけお付き合いください。。。

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