53話 装備の補充と義兄上
「いつもありがとうございます、義兄上」
装備店に向かう道すがら、隣を歩く蒼から唐突にお礼を言われた。
「気にする必要はない。俺も行く必要があっただけだ」
蒼に対する気遣いでもなんでもなく、ユーリ自身が装備店に用事があるために同行しているに過ぎない。
尤も、用事がなかったとしても母であるクリスティアーネに気に掛けるよう言われているので、どちらにしろついて行ったと思うが。
先述した通り、今向かっているのはユーリ御用達の装備店。どちらかと言えば平民騎士向けの店で、ユーリのような貴族階級が行くような店ではないのだが、価格の割には品質が良く、更には特殊なオーダーメイドにも柔軟に対応をしてくれるため、訓練生時代からずっと通っている。
以前、蒼を連れて行ったのもこの店であり、珍しい蒼の刀のホルダーを作ってもらった。
先の実地訓練で蒼の装備は殆ど使い物にならなくなってしまったので、新たに購入しに向かっているという流れである。
「いらっしゃい……ってユーリ様じゃないか。ついこないだ来たばかりなのにまた来たのかい」
店主の言葉に蒼が「やはり付き合わせてしまったのでは」と不安げな目をユーリに向けてくる。
「俺が頻繁に来るのはいつもの事だろう」
誤解を招くような発言はやめて欲しい。実際は蒼同様、先の実地訓練でユーリ自身の装備もかなり消費したので、本当に用事があって来ている。
「俺はいつもの補充だから、適当に出してくれれば構わない。今日は義妹の装備も作りに来たからそっちの話をしたい」
「ユーリ様はお貴族様で金を持ってるんだから、こんなガラクタじゃなく一級品を買えばいいのにと思うんですけどねえ」
「まあ、うちとしては在庫処分が出来ていいですけどねえ」と言い、頭を書きながら店の奥へ入っていく。しばらくすると、短めの剣が乱雑に入れられた箱を持って戻ってきた。箱にユーリ様専用と書かれているのは見なかったことにする。
ラウラを師事したせいでユーリの戦闘スタイルはかなりコスパが悪く、一々一級品を買っていたらいくら第1師団の給金が高くても困窮するのが目に見えている。なので、ユーリは店主の弟子の作品や売れ残りなどの安価な剣を購入している。
流石にメインとなる雌雄一対の剣に関しては、装飾も見事で魔法付与にも耐えうる業物を使っているが、それすらそれなりの頻度で傷むので蒼の刀がうらやましく思う。
箱の中身を物色しながら、蒼の装備について相談していく。
「アオイ様は今日どんなものをお探しで」
「申し訳ないのだが、前回作ってもらったホルダーが壊れてしまったので新しいものをお願いしたい」
そう言いながら、刀を差しだす。
「なるほど。形はどうします」
「前回と同じ形で。あ、そういえば、第4師団の副師団長から短剣を用意しておくように言われてたんで、この刀と似た形の短刀とそれ用のホルダーも作ってもらえますか」
基本的には会話に口を挟もうとは思っていなかったユーリが、その言葉を聞いてすかさず尋ねる。
「ラウラ副師団長が何故そんなことを」
「いや、雷属性の魔法の扱い方を教えてくれると」
「アオイ、悪い事は言わない。短剣は誂えるのでなく、ここから選んだ方がいい」
ユーリは自分が物色していた箱を示す。
「え。あ、はい」
蒼が素直に箱を探し始めるのを見届け、その間にユーリは店主と話しを進める。
「師匠のところで学ぶのであれば、ホルダーはこのままではいけない」
「ラウラ様も特殊だからな」
蒼そっちのけで、2人はホルダーの構想を練っていく。
「俺と違って蒼の雷属性は副属性だから、師匠も補助的に使うことを考えていると思う。2本くらい追加で持って置けるようにすればいいんじゃないか」
「ラウラ様の事を考えればもう少し数を持てるようにしておいた方が、安全だと思いますがねえ」
「確かに。刀もあるからその辺はバランスを考えないと。アオイ、刀は背中に背負ってはいけないのか」
完全に蚊帳の外だったので、唐突に話を振られびくっとしながらもユーリの質問に答える。
「背負うこともできますが、かなり長いので抜きにくいんです。抜けないことは無いですが、腰に下げた方が圧倒的に抜刀が早いです」
「アオイの刀は教会で調べた時に、任意の場所に呼び寄せる機能があるといってたと思うが、あれはどうなったんだ」
蒼はその話を聞くと目から鱗というような表情をした後にすっと目をそらした。どうやら忘れていたようだ。
「背中に背負えればレパートリーが増えていいと思ったんだが」
「両方できるようにしておけばいいんじゃないですかい。短剣部分はどんな形のでも使えるよう調整が出来るようにしなければいけませんねえ……」
「腿に着ければ重さも分散されるしいいのでは……」
その後もユーリと店主とで熱く語り合い、更にはユーリのホルダーの改装案でも盛り上がって、それらは蒼が剣を選び終わってからも続いた。
なかなかロマンあるホルダーが出来上がりそうで、有意義な時間が過ごせたように思う。
ただ、時間を気にせず熱く語りすぎてこの後に予定をキャンセルする事になってしまい、家に帰ってからクリスティアーネにこっぴどく叱られたのだった。
義兄上の戦い方はなかなか特殊です。今回少し触れてみました。




