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52話 第4師団での魔力調査(2)

「確かにアオイの魔力量は平均よりかなり多いので大規模な魔法行使は可能です。しかし、最近魔法を学び始めたばかりのアオイでは、あのような大規模な魔法を準備なしで行使するのは不可能に近いかと。考えられる要因に心当たりがあります。生まれながら黒髪を持つ者の中に稀にいるのですが、大気中に含まれる魔力を扱えるものがいます。大気中に存在する魔力は指向性を持っておらず、いうなれば無属性の魔力です。これは基本的に人が直接使うことは出来ません。ただし、稀にそれを扱えるものがいるのです」


「それが私だと」


「そうです。これだけ聞くと無尽蔵に魔法を使えるように聞こえますが、そうでもないのです。デメリットも当然あります。まず、大気中の魔力は指向性を持たない無属性の魔力なので、自身の魔力を使って指向性を持たせる必要があります。呼び水のように自分の魔力を使わなければならないので、大体2倍程度しか使えないといわれています。また、自身が保有できる魔力量以上の魔力や合わない属性の魔力を扱うことになるため、身体への負担が大きい。実地訓練におけるアオイの怪我は、もちろん襲撃者による電撃がメインではありますが、身体に見合わない魔力を使ったことも大きいのです」

 

 ラウラは口調こそ淡々としているが、少し表情が硬い。


 蒼は正直なところ、自身の強い感情のせいかあの時のことを断片的にしか覚えておらず実感がわかない。実際に現場を見たものから状況を伝え聞いてはいたが、蒼自身はそれほど大事なことだとは思っていなかった。


「これに関しては自身で管理してもらうほかありません。多用すれば身体を害し、最悪命に関わります。回復魔法で治るものでもないので、くれぐれも気を付けなさい」



 話が終わり、そろそろお暇しようと席を立とうとした時、蒼の背面の扉が唐突に開いた。


「ただいま、ララ。疲れたから甘めのお茶入れて。おや、お客様が来ていたのかい」


「だから、部屋に入る時はノックしてくださいとあれほど……ギル! 眼鏡は」


 ラウラは最初こそいつもの事だというようにあきれた様子だったが、ドアの方に視線を向けた途端、彼女にしては珍しくかなり焦った声を出す。

 蒼が立ち上がって後ろを振り返れば、全身ぼろぼろでまさに満身創痍という言葉がぴったりな状態のギルベルト第4師団師団長が立っていた。服は破れ隙間から汚れた包帯が見え隠れしており、頭部も右目を巻き込む形で雑に包帯が巻かれていた。ラウラの言う通り、トレードマークの色付き眼鏡はかけておらず、いつもは眼鏡に阻まれてよく見えない左目がさらされていた。

 最後に見た時と何かが違っている気がするのだが、眼鏡がないせいだろうか。


「思ったより手こずってね。眼鏡は壊してしまったから、また新しいのを頼まないと」


 そう言いながら、ギルベルトはずいずいと蒼の方に近づいてくる。


「こんにちは、アオイ君。話は聞いていたけど、属性が変わったんだってね。なるほど、とてもきれいな色だ。元々の透き通るような瑠璃色の瞳に星々のように黄色がちりばめられて、まるで満天の星空のような……」


 ギルベルトは蒼の顎に指をかけ、顔を自分のほうに向けさせる。さらには顔を寄せて瞳をまじまじと見るので、自然と蒼の視界にもギルベルトの瞳が映る。

 

 血のような深紅色の瞳。暗く、それでいて透明度の高い(あか)はまるで宝石のようだった。

 低魔力者はくすんだ黒に近い暗い色、高魔力者は明度も彩度も高い薄い色が多いこの世界で、暗くとも透き通るという両方の特徴をもつこの瞳が秘める魔力量は蒼にはわからない。

 ギルベルトの話も入って来ず、そのままの体制を受け入れながらその瞳を見つめていた。



「そんなにまくしたてたらアオイも困ります。準備しますので、こちらに座っていてください。アオイ、すまないが今日はここまでお願いします」


 ぼうっとしていた蒼はラウラの言葉で我に返る。

 ギルベルトはラウラに引っ張られ、そのまま脇に置いてあった長椅子に座らされていた。

 

「はい、今日はありがとうございました」


 柄にもなく、ずっと見つめてしまったことに恥ずかしさがこみ上げ、蒼は逃げるように部屋を後にする。


 何故、早々に目をそらさなかったのだと悔みながらも、しばらくは目に焼き付いたまま離れなかった。

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