51話 第4師団での魔力調査(1)
実地訓練から1カ月。
あの時負った傷も殆ど癒えた蒼が足を踏み入れたのは、第4師団の敷地だった。
第4師団所属しているわけでも、ましてや入団希望でもないのに、ここに足を踏み入れた回数は訓練生の中では誰よりも多い気がした。
「待っていました、アオイ。あれから身体の調子はどうですか」
出迎えてくれたのは副師団長のラウラだ。
魔力の変化が発覚後、蒼の病室を何度か訪ねてきているので特に久しいということはない。
「聖女様の治療のおかげですっかり良くなりました。本日はお時間いただき、ありがとうございます」
「ならよかったです。魔力調査に関しては仕事の一環なので気にしないでください。むしろ仕事でなくとも、こちらから調査をお願いしたいくらいなので」
第4師団の研究気質は相変わらずのようで、蒼は若干引きつつも曖昧に頷く。
そのままラウラついて行けば蒼が立ち入ったことのない部屋に案内される。ラウラ個人の研究室のようで、中は医務室のような実験室のような、何とも言えない作りとなっていた。壁際に並んだガラス棚には、何に使うかわからない器具や薬品が整然と並べられている。
用意されていた丸椅子に座ると向き合うようにラウラも座る。脈を図るようなしぐさで手首に触れられたりしながら、ずっと黙っているのも気が引けたので、作業の邪魔にならない程度に話しかけた。
「ギルベルト師団長は本日いらっしゃらないのですか」
「師団長は別件で不在ですね。ああ見えて忙しい方なので、本来はこちらに居ないことの方が多いのです。少し顔を触りますよ」
その後も他愛もない会話をしながらも、ラウラは淡々と作業をこなす。目を閉じないように手で押さえ瞳に光を当てられたり、用途がわからない器具を肌に押し当てられたり……されるがまま1時間強が経過するとようやくラウラの手が止まり解放された。
「これで一旦終わりです。休憩しながら調べた結果を軽くお話ししましょう」
そのまま研究室の隣の部屋に案内される。隣の部屋は副師団長室で書斎と応接室を担っているようで、事務机の他に応接セットが置かれている。
ラウラが手ずから入れてくれたお茶に手を付けていると、ラウラが口を開いた。
「後で詳細を書いた報告書も上げますが、アオイ本人には先にお話ししておきましょう」
「そうしていただけると助かります。やはり、自分の身体の事は気になるので」
ラウラは頷くと詳細を語り始めた。
「結果を先に言えば、一切問題が見つかりませんでした。まるで最初から氷属性と雷属性を持っていたかのように。教会の報告書には氷・風と表記してあるので、元々風属性を持っていたのは間違いないのですが、その痕跡は一切見当たりません。おそらく教会で調べなおしても結果は同じでしょう。極めて特殊な例ではありますが、何ができるという訳でもないので事実を受け入れ、このまま様子を見ていくしかありませんね」
「そうですか。ありがとうございます」
「思ったよりも淡々としているのですね」
「元々、属性自体を持っていても使えていなかったので、特に実感がわかないだけです」
言葉通り、ようやく氷属性も使えるようになったところで、水属性については集中していれば少し、風属性に至っては全く使えなかったので、特に何の感慨もなかった。
ラウラは蒼を見て少し考えこむと、一つの提案をしてくる。
「よろしければ、雷属性の魔法の使い方をお教えしましょうか。ユーリも定期的に通ってますし、雷属性も使えれば便利かと」
「お願いしてもいいのならぜひお願いしたいです。知っての通り、あまり魔法は得意ではないので」
「構いませんよ。魔法つながりでもう一点、お話ししたいのですが。まあ、こちらに関しては状況証拠のみで確実なものという訳ではないのですが」
何か言いづらい事なのか、一呼吸おいてからゆっくりと語り始る。
「実地訓練で現場を見たものの証言から推測されるあの時の消費魔力量は、今現在アオイが持っている魔力量よりはるかに多いのです。いくら感情が高ぶっていたといえど、あの範囲に吹雪を生じさせることは今のアオイには難しいと考えています」
1話で終わりませんでした。




