48話 実地訓練後半戦(6)
蒼が目を覚ましてまず感じたのは、貫くような身体の痛みだった。
焦げたような臭いも感じることから、電撃によってひどい火傷を負っているのだろうと推測する。
痛む身体に鞭を打って起き上がり、辺りを見渡たすと、少し離れたところで荷物を漁っている青年が見えた。青年が一人でいる事を不審に思い、元々ハルトマンがいた方向に視線を向けると、そこには血塗れで木に磔にされている人影が目に入った。
その光景が目に入った瞬間、血が沸騰したと錯覚するような、抑えがたい憤怒の感情が蒼の中で渦巻いた。その湧き上がる感情に応えるかの如く、身体からはとめどなく魔力が溢れ出し、魔力は蒼を中心に冷気となって渦巻いていく。空気中の水分も凍り、季節外れの雪が降りしきる。空気だけでは収まらず、地面や植物等、蒼の周りにあったものが次々に氷像へと変わっていった。
バチバチという音を耳にしながら、蒼は自身の敵を見つめた。
荷物を漁りに夢中だった青年もただならぬ気配を感じたのかこちらを振り返る。蒼が起き上がっていることに、驚きながらも電撃を放った。電撃は真っ直ぐに蒼に向かって飛んできたが、突如地面から生えてきた氷壁によって阻まれ、当たることはない。
役目を終えた氷壁は砕け散り、無数の鋭利な氷塊へと変わる。蒼が手を振れば、それらは正確に飛んでいき、青年の身体に突き刺さる。
攻撃はそれだけで終わらず、倒れこんだ青年の下から鋭利な氷柱を立て、串刺しにした。
青年の最後は、実にあっけなかった。
青年が息絶えるのを確認すると、蒼は氷柱を解除する。穴だらけの青年が雪の上に落ち、真っ白な雪に真っ赤なシミを広げた。
それに目を向けることもなく、蒼は横を通り過ぎる。痛む身体を引きずり、ふらふらしながらもハルトマンのほうへと向かっていった。
遠目で見えたハルトマンは目を閉じていたので不安がよぎったが、蒼が近づくとうっすらと目を開いた。
「……ずいぶんと遅いお目覚めだな」
生気のない顔をしているが嫌味を言う元気はあったようで、蒼は少し安堵する。
「すまない」
「謝るな。お前は関係ない。俺が弱かったのが原因だ」
そう言いながら、少し視線を逸らす。
蒼は身体強化の魔法を使い、あまり力が入らない身体を無理矢理動かし、ハルトマンに刺さった刃物を素早く抜いていく。ハルトマンがたまらず呻くが、それには構わずひたすらに抜いていく。抜いたところから出血がひどくなるので手早く済まさねばならない。
全部抜けたのを確認した後、取り出したネックレスに魔力を注ぎ石を割った。するとハルトマンの傷が塞がっていき、出血が止まる。
傷が塞がるのを見て安堵したのか、既に限界だったのか。蒼の身体から力が抜け、ハルトマンにもたれかかる形で倒れる。
「おい……」
血は止まったとはいえ、クリスティアーネの魔力石では表面上の傷を塞ぐ程度が精一杯であり、完治とはほど遠い。当然、ハルトマンは動くことができない。
蒼の身体をよく見れば、直撃を受けたであろう左半身は焼け爛れ、見るも無惨な状態だった。
これだけの傷を負って死なずに、さらにはここまで動けたのが奇跡に見える。
動けない以上どうすることもできないので、ハルトマンは蒼を乗せたまま深く息を吐く。
雪はいつの間にか止んでいた。
遠くから自分達を呼ぶ声が聞こえてくる。
とりあえず、どうにか生き延びることはできたようだ。




