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46話 実地訓練後半戦(4)

 蒼が大太刀に手をかけた瞬間だった。


「うわあああああああ!!!」

 

 ―ドガンッ―


 青年が叫ぶと同時に地響きのような爆音が鳴り響き、閃光が走る。真っ暗闇だったはずの辺りが一瞬、昼間のように明るくなった。

 その瞬間、蒼の身体に衝撃が走った。それは以前見たラウラが机を破壊した時と同じ雷の魔法だったが、あの時とは比べものにならないほどの威力だった。

 

 その雷は蒼の左半身を貫き、身体をなぞるように服を肌を焦がす。あまりの衝撃に為す術もなく、蒼は地面へと倒れた。


 電撃を浴びせた張本人である青年も蒼よりは浅く、けれど身体の広範囲が焼け焦げていた。たまたまなのか狙っていたのかは定かではないが、彼を拘束していた縄は焼け落ちていた。

 痛みを感じていないようで、傷を意識することも無くそのまま立ち上がる。


 目の前で起きたことのあまりの衝撃に、ハルトマンは一瞬判断が遅れた。その一瞬が彼の命運を分けることになった。

 青年がハルトマンに向け、鋭い電撃を放つ。蒼が食らったものよりも格段に威力は落ちていたが、ハルトマンの動きを止めるには十分だった。

 

「ぐっ……」


 意識は失わなかったものの、思わず膝をついてしまう。

 青年はその隙を見逃すことなく、素早くハルトマンに近づき、体当たりをしながら持っていた物を突き立てる。


「がっ……」


 ハルトマンはそのまま木に背中を打ち付け、衝撃に息が詰まる。背中よりも痛む腹に目をやれば、そこには蒼が磨いていた脇差しの柄が見えた。

 

 刀は後ろの木にまで貫通して突き刺さっており、身動きが取れない。柄に手を掛け、どうにか引き抜こうと試みるが、電撃を受けた痺れもあってか、抜くことは敵わない。

 青年はハルトマンの直剣を手に取ると、今度はそれで太ももを貫く。


「許さない。絶対に許さない。お前はすぐには殺さない。兄貴達以上の苦しみを味あわせてやる」


 薄い黄色の瞳を爛々と輝かせて、制御しきれていない雷で自身の身を焼きながら、彼は言い放つ。


 予備の剣やナイフ……近くにあった尖った形状の物が、次々とハルトマンの身体に突き立てられていく。宣言された通り、すぐには死なないよう急所を外して。


 やがて、近場に手頃な物がなくなったのか、青年がハルトマンから離れる。


 急所は外されていても、流れる血が確実にハルトマンの命を削っていく。

 度重なる痛みと貧血で遠のいていく意識の中、ぼんやりとした頭で考える。


 ――あの様子だとアオイは助からないだろう。自分も誰かが駆けつけるまで持たなさそうだが。


 あれだけの電撃を食らえば、見た目以上に体内のダメージが深刻だろう。自分も片手で数えられないくらいは色々刺され、見るも絶えない状態だが、刺しっぱなしにされているおかげで出血は思っているよりも少ない。それでも長くは持たないことは、朦朧としている頭でもわかる。

 

 

 ハルトマンは蒼を恨んでなかった。

 襲ってきた連中は言語道断で断罪対象だが、青年に関しては黒に近いものの、あの時点ではまだ不明確だった。その状態で一方的に処分を下すのは、ハルトマンからしてみても避けて通りたいと思っていた。実際、蒼と立場が変わっていたら同じ判断を下しただろう。

 

 ヴェンツェルはあまり納得していなさそうだったが。

 結果としてこうなった以上、ヴェンツェルが正しかったのだろう。

 


 結局の所、蒼にあれだけ言っておきながら、自分も甘かったのだ。

 いくら後悔しても、もう遅い。



 寒い。

 


 いよいよ終わる時が近いのか、尋常じゃない寒気を感じた。


 

 ハルトマンはいつの間にか閉じてしまっていた目を開く。

 

 そこには吹雪く氷原が広がっていた。

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