44話 実地訓練後半戦(2)
蒼達が所属する第5班は川から少し離れた林の中を巡回することになる。ヴェンツェルとハルトマンが前衛、蒼が後衛という陣形で林の中を進んでいく。
魔獣がいた森ほど木は密集しておらず、川の流れる音が辺りに響いている。秋が終わり冬に入る直前の今、木々からの落葉は見応えがあるものの、どこか寂しい。
しばらく林の中を進んでいくと、少し開けた場所に出た。よく見れば木が切り倒された痕跡がある。
「この辺に人がいたみたいだね」
そう言いながらヴェンツェルが足で落ち葉を除けると、そこにはたき火の痕跡が残っていた。
「まだ近くに人が残っているかもしれない。警戒を怠らないよう……」
ガサッ。
ヴェンツェルが立っているその向こうから、微かに落ち葉を踏む音が蒼の耳に届いた。
蒼がそちらに顔を向ければ、木陰からこちらの様子をうかがっていた男と目が合う。一瞬の間を置いてから、男は持っていた鉈を振りかぶりながらこちらへ猛然と駆け出してきた。
近くに潜んでいたであろう、同じような格好をした男達が追従してくる。人数は十数人といったところで、鉈やナイフ、槍などさまざまなものを手にこちらへと向かってきた。
「ヴェン!ハルトマン!」
蒼が声を上げるのと同時に2人は男達の方へと向き、素早く武器を取り出す。
「アオイはそのまま魔法で援護を。ハルトマンは私と共に敵を迎え撃ちなさい。容赦はするな」
そう言うや否や、ヴェンツェルは地面を蹴り一気に距離を詰め、手に持つハルバードで一薙ぎに切り払った。そのような攻撃を受け無事なはずは無く、斬られた3人の男達は血をまき散らしながら自身が作った血の池に沈んだ。ヴェンツェルはそれには目もくれず、既に次の目標へと向かっている。
出遅れたハルトマンは表情を強張らせたが、すぐに近づいてきた1人に斬りかかる。
魔物討伐でだいぶ慣れたと思っていたが、目の前で繰り広げられる惨状に蒼は吐きそうになる。それを涙目になりながらもなんとか飲み込んで、2人援護をすべく氷の矢を打ち込む。武器を持っている方の腕を狙い確実に魔法を当てていく。
人数こそ多かったものの、動きは素人そのものだったため、それほど時間はかからずに鎮圧された。
顔色を悪くしながら息を上げているハルトマンとは対照的に、ヴェンツェルは息も乱さず、平然としている。辺りを警戒しながら蒼の方に近づいてくるヴェンツェルは何かを見つけたのか、目でそちらを見るように促された。
ヴェンツェルに目線で促された方向を見れば、呆然とこちらを見ている青年が目に入った。
「アオイ」
その一言で蒼はヴェンツェルが言わんとしていることを察する。
蒼は死体から目を離さず青ざめている青年に歩いて近づく。蒼がそばに来ても微動だにしない青年の首へ向けて刀を振り下ろした。
蒼の一撃を受けた青年はそのまま地面へと倒れる。
「なぜ殺さなかったんだい」
蒼の手にある、鞘から抜かれていない刀を見ながら、ヴェンツェルが問いかけてくる。
「こちらに向かってこなかった以上、一般人の可能性がある。それを考慮した」
「なるほど。ここに居合わせた時点で盗賊関係者だと思うが、まあいいだろう。では、拘束しておきなさい」
蒼は指示されたとおり、青年を後ろ手で縛る。縛った後に身体検査をしてみれば、小型のナイフを所持していたものの、それだけでは盗賊とは断言できない。そのため、今日の目標地点まではこのまま連れて行き、定例の時に本部へ引き渡すこととなった。
ただし、目が覚めて暴れるようであればそのまま殺して捨て置くことになる。




