43話 実地訓練後半戦(1)
実地訓練前半戦である魔獣討伐作戦完了後、当初の予定通り琥珀は先に帝都へと帰還した。
蒼達は魔獣の森から更に進み、国境の川に併設された街、シュタットまで来ていた。今日一日は補給と休息のためここに泊まり、明日からまた野営となる。
停戦中とはいえ、戦争が再開すれば真っ先に戦火に包まれるであろうこの辺りは、住むものは殆ど居ない。この辺りに住んでいるのははぐれものや盗賊の類い、街に住めない貧困層ばかりである。
シュタットに関しては国が管理している街であり、隣国へと渡る船の発着場がある。尤も、帝国の入出国はかなり制限されており、国から許可を得た一部の限られた商人か帝国上層部しか使用できないため、船が動くことは殆どない。このような街は国境沿いにいくつか存在しており、貿易関係者や騎士の駐屯施設等が併設されている。
国を隔てているこの川の幅はかなり広く、泳いで渡ることは厳しい。冬になれば川は凍るものの、渡れるほどには厚く凍らず、それでも密出国しようとして亡くなるものもいるという。
この川以外にも国境を隔てている場所はあるが、どこも似たような感じで密入出国は厳しい。
唯一南側の山間部を抜けた先は、騎士も殆ど巡回しておらず出入りもできてしまうらしいが、近年帝国領になった部分なので、その辺りの住人の意識も曖昧というのもあるらしい。
シュタットで一日休んだ後、騎士駐屯所の広場に集合する。出発時とは違い、蒼を含む訓練生達の顔には疲れが見える。
実地訓練が始まった時と同じように前には第5師団副団長であるティルが立っている。訓練生とは違い、顔に疲れは見えない。
「改めて国境近辺巡回作戦の詳細を説明させていただきます。ここシュタット近辺の、川の国境付近で野盗による襲撃事件が多発しています。シュタットに訪れる商人や少人数で巡回中の騎士が狙われ、荷物を奪われたり殺害されたケースもあります。悪質な犯行が多く国としては看過できなくなったため、この作戦が決行されることとなりました。作戦は至ってシンプルです。訓練生も含め広範囲に展開し、人海戦術で盗賊を一掃していきます。盗賊に関しては基本的に殺してしまってかまいません。あくまで今回は一掃することが目的なので。ただ、前後関係を調べたいので、第5師団の皆様には数人は残していただけると僕が助かります。訓練生は特に気にしなくて結構です。練度的にも生け捕りというのは難しいと思いますので」
淡々とした口調でティルは続ける。
「一つ気を付けていただきたいのが、一般人の方の扱いについてですね。この辺りには盗賊以外の貧困層の方も隠れ住んでいたりするので。こちらに関しては特に抵抗されなければ、一旦拘束して本部に連れてきてください。抵抗するようであれば殺してしまってかまいません。盗賊が変装している可能性が否定しきれないので」
出発前から聞いていたが、自分の手に人の生死がかかっていると思うと蒼の身体が強張る。ただ、蒼の他にも顔色が悪い訓練生は何人かいた。
「質問がなければ解散します」
特に誰からも声は上がらず、そのまま解散となる。
訓練生にとって魔獣討伐は前座で、ここからが本番といっても過言ではない。内勤にでもならない限り、これが騎士にとっての日常なのだから。人を守るために人を斬る。
蒼の本当の実地訓練が始まった。




