42話 大型魔獣討伐
「コハク様、そろそろお休みになった方が良いのではないでしょうか」
フィリップさんに声をかけられ、琥珀はほとんど傷が見えなくなった患部に添えていた手を下ろしました。治療に集中していて気づきませんでしたが、辺りはすっかりと暗くなっています。
治療を終えた騎士が出て行くのを見送り、琥珀もフィリップさんを伴って自分に与えられた馬車へと戻ります。
「本日もかなりの人数の治療をなされて、お疲れではありませんか」
「琥珀は大丈夫ですよ。まだまだ魔力にも余裕があります。修行の一環ではありますが、これは琥珀がやりたいことでもあるのです」
本来であれば、自然治癒に任せるような些細な傷でも治療を受けてもらっているため、1日にかなりの人数の治療を行っています。どんなに小さな傷でも琥珀には無視することができなかったため、こちらからお願いして治療をさせて貰っています。
幸いなことに、大きな傷を負う騎士様はいないのですが、かすり傷を負う人はたくさんいて姉さまが心配になります。
「訓練生の第5班と魔獣が接敵してから魔獣の数が増えてきました。強力な個体も増えてきたので、そろそろコハク様の討伐対象である元凶の魔獣が見つかるかもしれません。コハク様も心構えしておいてください」
「はい、覚悟はできているつもりです」
この時のために治癒魔法の他にも攻撃魔法の練習をしてきました。姉さまも頑張っているのだから琥珀も頑張らないと、と自分に言い聞かせます。
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その時は思ったよりも早く訪れました。
「コハク様、あれが元凶の魔獣のようです」
そう言ってフィリップさんが指を指す方向には、一軒家くらいあるのではないかというくらい大きな熊が立っていました。
「お、大きいですね」
「今回の魔獣活性化の元凶に相応しい強力な個体ですね。私も何度かこのような作戦に同行していますが、ここまで強力な魔獣を見るのは初めてです」
想像していたよりも大きな魔獣に思わずひるみそうになります。
大きな熊の足下では騎士様達がこちらに来るように誘導しているのが見えます。
「コハク様、準備は良いですか」
「はい、大丈夫です」
そう言いながら、何度も確認した自分の魔力を再度確認します。
――うん、大丈夫だ――
多少、治療で魔力は減っているものの、攻撃魔法を打つのには十分な魔力が残っています。緊張はしていますが、お役目を全うしなければ。
両手を前に突き出し、かなり大きな光の槍を作ります。魔獣は光属性に弱いことが大半なので、当たればあの熊の命を奪うことができるでしょう。
これを放てばあの熊は死んでしまう、そう考えるとなかなか魔法を放つことが出来ません。琥珀がもたついている間に引きつけてくれる騎士様達の怪我が増えていきます。
「コハク様、大丈夫ですか」
「少し怖くなってしまいました。魔獣とはいえ、命を奪うことが怖いです」
フィリップさんは怖じ気づいてしまった琥珀に怒ったりはせず、ゆっくりと諭してくれます。
「以前にお話ししたとおり、魔獣も本来はあれほど攻撃的ではありません。何らかの原因で自分の許容値を超える魔力を取り込んでしまい、凶暴化してしまうのです。身に余る魔力は身体を蝕みます。その苦しみからあの個体解放すると考えてください。その影響を受けて凶暴化している他の魔物達も同じです。巨大な魔力に当てられて我を忘れているのです。死は終わりでは無く、女神様のいる狭間の地へ還り、また巡る。恐れることはありません」
この実地訓練に来る前、フィリップさんが琥珀に教えてくれたことです。凶暴化した魔獣の大半は痛みから余計暴れることになると。その魔力に当てられた他の魔物も同様と。
その苦しみから解放することも琥珀のお役目なのだと。
「はい……。琥珀のお役目を全うします」
作った光の槍に更に魔力を注ぎ込みます。一撃で終わらせられるように。
「はっ!」
琥珀が放った槍は狙い通り熊の魔獣に命中しました。その傷口から白い炎が上がり、魔獣の身体を包みます。魔獣は少しうめいた後、ぷつりと糸が切れたようにその場に倒れました。
――無事に女神様の元へ辿り着けますように――
心の中でそう祈ります。
熊の魔獣につられて集まってきていた小さな魔獣達も、先ほどよりは小さい光の矢を複数作って一気に放ち、倒していきます。
「コハク様、その辺りで大丈夫です。お疲れ様でした。重傷を負っている騎士もいないようなので、治療は明日にして本日はもう休みましょう」
おおかたの魔獣が方付いたころ、フィリップさんに声をかけられました。
騎士様の怪我が心配ですが、かなり疲弊していたのでその申し立てを素直に受け取ることにします。
「はい、お気遣いありがとうございます」
こうして琥珀の魔獣討伐が終わりました。
後半戦が終われば一区切りです。




