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39話 実地訓練前半戦(5)

 ヴェンツェルと蒼で魔法を使い、辺り一面に広がった血を洗い流す。その間にハルトマンは死体の群れから2頭程選び、慣れた手つきで解体を行っていた。他の魔物をおびき寄せるのに死体を使うことになったのだが、あらかじめ死体から魔石を抜いておかないと死体が塵となって消えてしまうので、肉を使いたい場合はこの処理が必須となる。

 全ての後処理が終わるころには日が沈み、薄暗さに包まれていた。


 拠点に戻った途端、蒼はヴェンツェルの魔法で服ごと身体を洗われる。


「急に何するんだ。自分の身体くらい自分で洗える」

 

「アオイ嬢はあまり水魔法は得意じゃないだろう?それに出せるのは氷水じゃないか。日が出ている日中ならともかく、夜は身体を冷やしてしまうからね。ほら、着替えてくるといい」


 そうして天幕の方へと向かうよう促され、蒼は観念して天幕へと向かった。その後ろでは、蒼に続いてハルトマンが洗われていた。「ちょっと荒……ごぱぱぱぱ」と悲鳴に似た声が上がっている。蒼の時より雑に水攻めされているようだ。


 

 蒼達が着替えや片付けをし散る間にヴェンツェルが夕食の準備をしてくれていた。蒼は正直あまり食欲がなかったが、明日に響くと良くないので無理矢理胃に押し込む。

 夕食が終わるとヴェンツェルは定例に出るため拠点を後にし、残ったのは蒼とハルトマンだけとなった。入団初日にいろいろあってから、蒼はハルトマンとほとんど会話してこなかったため、ヴェンツェルが席を外すこの時間に気まずさを感じていた。夕食の片づけも終わり他にやることもなかったため、早々に自分の天幕に戻ろうとした蒼にハルトマンが声をかける。

 

「おい、ちょっと付き合え」


 たき火の前に座るよう促された蒼はおとなしくそれに従う。そこから少し離れて座ったハルトマンの前にはカップが二つ用意されており、あらかじめ用意していたらしい鍋から液体を注ぎ入れる。そのうちの一つを蒼に差し出してきたので受け取った。

 温かい茶を口に含むと、口いっぱいに豊かな風味が広がった。大した茶器もない環境で入れられたとは思えないほどおいしい。


 しばらく無言で茶を飲みカップの中身が半分程になったころ、ハルトマンがようやく口を開く。


「私は今でもお前を認めていない。女に前線は務まらないと考えている。どうしても騎士になりたければ、今からでも第2師団で警護職に付くべきだ」


「まだそんなことを言うのか」


「何度だって言うさ。女に前線なんて無理だ」


「そんなこと……」


「ないと言い切れるのか? 今まで帝都からもろくに出たこともない、温室育ちのくせに。教会直属騎士団を希望らしいが、あそこは帝国直属騎士団と違って師団が分かれていない分、さらに厳しいぞ。場合によっては人だって切ることになる。お前に人が切れるのか? 人どころか魔獣に怯え、動けなかったくせに」


 事実を並べられた蒼は、何も言えなくなる。


「別に私はお前が嫌いだからこんな話をしているわけじゃない。お前の技術力は認めている。でも女に前線は無理な話だ。女は男の後ろで守られてればいいんだよ。この実地訓練も今からでも離脱するべきだ。ここで抜けても誰もお前を責めはしないだろうよ」

 

 ハルトマンはそこまで言い終えると残っていた茶を一気に飲み干し、天幕の方へ歩いて行く。

 一人残された蒼は、冷めたカップを持ったまま、動くことが出来なかった。

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