38話 実地訓練前半戦(4)
この話以降は少し流血表現がありますのでご注意ください
「いよいよだね、アオイちゃん」
「ジーク」
蒼が荷の確認をしていると後ろから声がかけられる。振り返るとそこには、既に準備を終えたのであろうジークが立っていた。
「大丈夫? 緊張していない?」
「大丈夫だ。ジークは班長だろ? それこそ大丈夫なのか」
「うーん、緊張はしないけど、班長なんて大役、俺でいいのかなって感じはするかなぁ。まぁ、俺なら出来るってことで選ばれたのだろうし、やれるだけやるだけだね」
「ジークらしいな」
「その通りだ。出来ることを出来る限りやるといい。……アオイ嬢、出発の時間だ」
蒼を呼びに来たヴェンツェルが言う。隣にはハルトマンも一緒にいた。
いよいよ出発の時が来たようだ。
「アオイちゃん、気を付けてね」
「ジークこそ」
短い言葉を交わし、準備を終えた馬に跨がる。ヴェンツェルとジークは目を合わせただけで、特に声をかける事もしなかった。
先導するヴェンツェルに付いていく形で蒼達は出発した。
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移動に費やした3日間では、魔獣に襲われることも野盗に襲われることもなく、予定通り魔獣が出没すると言われる森の入り口まで到着した。安全に越したことはないが、蒼が少し物足りなさを感じる程、平和な行程だった。
森に入る前に一度集合し、最終確認を行った後、再度班毎に散開し森へと足を踏み入れる。ここからが本番だ。
蒼達第5班も所定の位置につき、いよいよ森に入るというところでヴェンツェルから最終確認が入る。
「これから森へと入る。各自緊急用の発光筒は持っているな。緊急時はそれを使えば近くの班と、第1師団の騎士が駆けつけてくる手はずになっている。逆に違うところでその光が見えたら、我々が向かうことになるのでそのつもりでいなさい。陣形はアオイとハルトマンが前衛、少し離れたところから私が補助する。異論はないか」
「「ありません」」
「ではまず拠点設営予定地に向かう。行くぞ」
今日の目標は拠点設営予定地まで向かい、拠点設営を行うまで。明日以降はその拠点を中心に徒歩で見回りを行い、魔獣を狩る。この行程を3週間行うことになる。
森は蒼が思っていたよりも静かで、生き物の気配が感じられない。いつでも大太刀が抜けるよう、柄の位置を確かめる。緊張と不安から、神経を尖らせながら進んでいったが、この日は魔獣に遭遇することなく予定地までたどりつき、拠点の設営をして1日が終わった。
魔獣に遭遇したのは森に入ってから2日後だった。
ブギギギィィィ!
猪型の魔獣の群れが蒼達の前に突如現れる。体長は3m近くあり、口元には巨大な牙も見えるそれは、蒼が知っている猪よりも凶暴そうな見た目をしていた。
ハルトマンとヴェンツェルはすぐさま武器を構えるが、蒼は怯み立ち尽くしてしまう。
「アオイ!」
ヴェンツェルに怒鳴られた蒼は慌てて大太刀を構える。
「ここにいる全ての魔獣を殲滅する。私はサポート回る。2人で刈り尽くせ」
「ああ、任せろ」
ヴェンツェルの言葉に瞬時に反応したハルトマンは、目にもとまらぬ早さで一番近くにいた猪型の魔獣に近づき、手にした直剣を首めがけて振り下ろす。直剣の長さが足りなかったのか、骨で引っかかったのか、首を落とすには至らなかったものの、猪は傷口から血を吹き出しながら倒れた。
蒼はその光景から目を離せなかった。
「アオイ」
完全に出遅れた蒼に、ヴェンツェルは名前を呼ぶ事以外はしなかった。その声は先ほどとは打って変わって、優しく言い聞かせるような声だった。それ以上は何も言わずこちらを見てくるだけ。いつも通りの笑顔だが、その目は蒼を試しているようにも見える。
意を決して柄を握り直し、猪の方へと向いた。ハルトマンに倣い、一気に猪へと近づくとそのまま大太刀を振り下ろす。
ズプッ……と刃が猪の首へ沈んでいき骨に引っかかることもなく、想像していたよりも容易く首が落ちた。吹き出した血をもろに浴びた蒼は、温かいな、今の今まで生きていたのだから当然か……とぼんやりとした頭で考える。
次の猪が近づいてきて我に返る。それと同時に初めて生き物を殺した感触を思い出し、蒼は強烈な吐き気に襲われた。吐き気をこらえながらも2匹、3匹と確実に仕留めていく。
気がつけば動くものは、蒼達3人以外に動くものはいなくなっていた。20匹近くいたの猪だったものは皆、血の海に沈んでいる。むせ返るような濃い血の臭いに包まれ、その中心で蒼は立ち尽くしていた。
「よくやった、アオイ嬢」
ヴェンツェルはいつも通りの笑顔で話しかけてくる。
こうして蒼の初めての魔獣との遭遇は終わった。




