35話 実地訓練前半戦(1)
蒼はギルベルトと話した日以降、深夜まで訓練を行うことを止めた。必然的に訓練時間は減ってしまったものの、気持ちに少し余裕が出来たおかげか訓練の質は上がったようで、確実に技術は身についているように感じる。
今日から約1カ月間、屋敷を離れ実地訓練へと向かう。
姿見に視線を向ければ、訓練生の証である見慣れた濃緑の騎士服が目に入る。実地訓練が終われば、袖を通すことはないだろう。
身支度を終え玄関へ向かうと、そこにはクリスティアーネが立っていた。
テオバルト、ユーリ、琥珀については、蒼より先に屋敷を出ており、残っているのはクリスティアーネと蒼だけだった。
「準備は終わりましたか」
「はい」
「今日から実地訓練ですね。あまり無理をしてはいけませんよ」
そう言うクリスティアーネの表情は、少し不安げに見える。
「大丈夫です、義母上。琥珀は私が守りますし、いざとなれば義兄上もいます」
「初めての実戦というのは、なかなかそう上手くはいかないものですよ。コハクを守るという気概も大切ですが、気負いすぎて自分を疎かにしてはいけませんよ。貴女はしっかりしていますが、危なっかしいところもありますからね。これを持っていきなさい」
クリスティアーネはそう言うと蒼の手に何かを載せる。それは銀色の小さな石がついたペンダントだった。
「これは義母上の魔力石ですか」
「そうです。あまり大きくはないのでそれほど強力ではありませんが、治癒の魔法がこもっています。いざという時に使いなさい。気休め程度にはなるはずです」
蒼は第4師団で習ったことを思い出す。
魔法の練度が上がると、自身の使える魔法をこめた石を作ることができ、その石を割ればこめられた魔法を使うことができるそうだ。ただし、それを作るにはかなり高い技術力と魔力が必要で、第4師団でも作れる物は一握りしかいないらしい。更に使用するにはこもっている魔法とは別の属性の魔力を注いで石を割る必要があるため、使い勝手が悪く市場にも出回らない。
光属性の魔力は少ししかないはずのクリスティアーネがこれを作るにはかなり苦労したことだろう。蒼は素直に好意を受け取る。
「ありがとうございます。これを作るのは、とても大変だったのではありませんか」
「家を預かる私にはこれくらいしかできませんからね。気をつけて行ってくるのですよ」
「では、いってきます」
貰ったペンダントを身につけた蒼は集合場所へ向かうため、屋敷を後にした。




