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32話 蒼の焦り(2)

「精が出るね、アオイ君」


「ギルベルト師団長」


 あたりもすっかり暗くなり、近くに置かれた魔石灯の光を頼りに魔法の訓練を行っていた蒼に声を掛けてきたのはギルベルトだった。

 日も落ち、真っ暗だというのに相変わらずの色眼鏡を掛けている。

 あの日以来顔を合わせることは無かったが、ユーリから殆ど表に出てこないと聞いていたので、前回が特別だったのだと蒼は考えている。


「だいぶスムースに魔法が出るようになったね。関心関心」


「いえ、私なんてまだまだ全然です」


 ギルベルトは訓練場の地べたにそのまま腰を下ろすと、蒼にも隣に座るよう促してくる。蒼としてはまだ訓練を続けたかったが、ギルベルトが諦める様子を見せなかったので観念して隣に腰を下ろした。

 ギルベルトは隣に座った蒼を満足げに見た後、視線を前に戻す。訓練場にはもう誰も残っておらず、少し肌寒い空気と静寂に包まれる。


 

「そんなに気負わなくていいと思うけどな。始めて2カ月でこれだけ使えれば大したものだよ」


 ギルベルトからの言葉に蒼は思わず顔をしかめてしまう。今まで散々言われてきた言葉は蒼を慰めるどころか、更に蒼の焦りを募らせ、つい反論してしまう。


「皆そうは言いますが、まだまだ足りないと思います。私は妹を守るために誰よりも強くありたいんです」


「噂の聖女様だね。とても優秀だと噂になっているよ」


 それを聞いて蒼は俯く。

 琥珀が聖女の職に就いてから瞬く間に帝都にその噂は広がった。魔力量が膨大で誰にでも手を差し伸べる聖女様。

 琥珀は自身の魔力を直ぐに使いこなし、教会でその力を存分にふるっている。本来はもっと先になる予定だった野外訓練が前倒しになるほどに琥珀は優秀だった。

 今のままでは琥珀の傍に居るのに相応しくないと蒼が考えてしまうほどには。


 普段会わない人を相手にしているからか、はたまたギルベルトの人柄がそうさせるのか、蒼はつい本音を吐いた。


「今の私は妹を守るどころか、妹の足を引っ張ってしまう。それが許せないんです……」


「ふんふん、なるほど。現時点でも君は第1師団に入れるほどには強い。それだけの実力があれば足を引っ張ることは無いと思う……という答えでは納得いかないんだよね」


 蒼はこくりと頷く。それで納得が出来ればここまで思い詰めていない。

 ギルベルトは蒼が頷いたのを横目で確認すると、真剣な表情で「そうだなあ」と言いながら続ける。


「君たちは姉妹なのだから、片方が気負い過ぎるんじゃなくてお互い支え合うということではだめなのかい? 僕は妹君と殆ど話したことがないから彼女の真意はわからないけれど、妹君だって君と同じように姉を支えたいから努力して魔法が扱えるようになったんじゃないのかい? 魔法は想像力が大きく影響する、想いだって影響するんだ。妹君の属性的にも人のために何かしたいという想いが魔法に強く影響されていると思うよ」


 蒼にはギルベルトの言葉に思い当たる節があった。

 

 ――姉さまはすぐ傷をつくって帰ってくるから、それを治せる力が欲しい――


 ギルベルトの言う通り、琥珀が女神様に願ったのは蒼を癒すための力だった。

 ここのところ毎日夜遅くまで、更には休日も返上しながら訓練に明け暮れる蒼に対し、琥珀は心配そうな目をしながら、疲労回復のための回復魔法をかけてくれた。

 自己本位ではあるが、蒼が琥珀を想っているように琥珀も蒼を想ってくれていると考えるのは間違いではないのかもしれない。

 

「確かに、その通りだと思います」


「そうだろう。まあ、確かに君は実力があるけど、まだまだ未熟なのは確かだよ。僕も含め、アオイ君より強い人間はいくらでもいる。年季の入り方も違うからね。でもそれは逆に伸びしろがあると考えればいいのさ」


 そう言いながらギルベルトは蒼の頭を撫でる。正直子ども扱いされることに思うところはあるが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

「まだ若いのだから存分に悩めばいいと思うよ。急ぐ必要はない」


 焦りが募り、視野が狭くなっていたのだろう。琥珀には悪い事をしてしまったと思う。明日からはがむしゃらに頑張るのではなく、少し肩の力を抜こう。


 偶然とはいえギルベルトに話を聞いてもらえて、余裕を取り戻せた気がした。

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