31話 蒼の焦り(1)
「アイスアロー」
まっすぐ伸ばした手の先に氷の矢が生成される。ちゃんと生成されたことを確認した後、一度手を引き矢を押し出すように再度手を伸ばす。
―シュッ―
蒼の手元で生成された氷の矢がまっすぐに的へ飛んでいく。
―トスットスットスッ―
氷の矢は一つも外れることなく的へ突き刺さった。
「だいぶ上手になったねー。最初とはまるで別人だなぁ」
「最初の話はしないでほしい……」
蒼は開いていた手を閉じ、氷の矢を消しながらジークを睨み付ける。
最初の補習から2月程経過し、第4師団での訓練も大詰め。この師団での訓練が終わればこのまま訓練生卒業となり他師団に振り分けられるのだが、今年は第5師団との追加訓練を受ける事が出来るらしい。受けずとも騎士団員になる事は出来るが、実力の見せ所でもあるため、殆どのものが受けるだろうというのがヴェンツェルの見解だった。
蒼としては、特に目立って上の地位に行きたいという願望はないが、参加する事を決めている。
「まさか第5師団での訓練に聖女様も参加する事となるとは。アオイ嬢もさぞかし心配だろう」
ヴェンツェルの言葉に蒼は頷く。
今回の訓練には新米聖女である琥珀の参加が決定されている。むしろ、琥珀の実務経験のために第5師団との訓練が設けられたと言っても過言ではないようだ。
「まぁ俺は1カ月半、毎日アオイちゃんと一緒に居られて嬉しい限りだけど。もちろん、アオイちゃんの大事な大事な妹である聖女様は命に代えても守るよ」
そう言ってジークは恭しい仕草で拳を胸に当てる礼をする。それには答えず、蒼は一層訓練に力を入れる。
第5師団での訓練内容は野外訓練。国境近くの森で野営を行いながら見回りを実施するのが大まかな内容だ。基本的には魔獣の駆除がメインだが、野盗や密入国者に対しても同時に対処していく。
聖女としての琥珀の仕事は戦闘で傷付いたものの回復で、可能であれば魔物の討伐までを約1カ月の間、行っていく。
訓練生は第5師団と聖女のサポートに加え、更に班ごとに分かれての野外実地訓練を2週間行う。
つまり聖女は1カ月、訓練生はそれに加え、2週間の野外実地訓練を受ける。
「聖女様については教会騎士団の人間も数名付くようだし第5師団がメインで警護に当たる。私達訓練生は自分の事を第一に考えないとね。アオイ嬢は聖女様を自らの手で守りたいと考えているだろうけど、私達にその役目は回ってこないよ。むしろ今後その役目を勝ち取るために、訓練に集中しなければね」
「わかっている」
蒼はヴェンツェルに返事をしながら、自分の内なる魔力に集中する。
この2カ月の間、休みの度にラウラ監修のもと、魔法訓練を続けてきた。その甲斐もあり、だいぶ魔法を使えるようにはなってきたものの、ヴェンツェルやジークには到底及ばない。「あの2人は規格外なので目標にするほうが間違っている」と事情を知るものには言われるが、追いつけない現状に蒼は焦っていた。
使える魔法の種類は増え、出す速度も増してきたが、イメージがものをいうこの世界の魔法を使うのは蒼にはなかなか大変な作業だった。言葉を発したり、身体の動きを使ってルーティン化することでイメージを補い、何とかここまで来る安定して魔法を使うことが出来るようになった。
正直、周りの同期達を見ても魔法を使いこなせているのはごく僅かなので、蒼自身も規格外ではあるのだが、それでも納得いかなかった。
「私とジークはそろそろ帰ろうと思うが、アオイ嬢はどうする?」
「私はもう少し自主練をしてから帰る」
ヴェンツェルとジークは目を見合わせ、しょうがないというように肩をすくめる。
「あまり根を詰めすぎちゃ駄目だよー」
それだけ言い残すと、それ以上は蒼に言及せず2人は帰って行った。
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