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29話 とある師団長の私室にて

 ラウラは蒼を見送った後、師団長の私室まで戻った。扉をノックした後、先ほどと同じように返事を待たずに部屋へと入る。

 

「あ、お帰りララ」


「その呼び方はやめてください」


「いいじゃないか。ここには君と僕しかいないのだし。それより、ちゃんと送り届けてくれたかい」


「命令通り、門の前までは一緒に行きましたよ。そこからはユーリが来ていたので一緒に帰って行きました」


 そんなやり取りをしながら、ラウラは先ほどまで蒼が座っていた席に腰を下ろした。蒼が使用していたカップはすでに片付けられており、代わりにミルク入りのコーヒーが置かれている。

 自身のお茶も入れなおしたのだろう、ギルベルトのカップにも並々とお茶が注がれていた。その隣には彼のトレードマークともいえる色眼鏡が置かれている。

 見慣れた色彩に安堵を覚えながらラウラは質問を投げかける。

 

「随分とアオイを気に入ったようですね。私室にまで招いて」


「なんだいララ、もしかしてやきもちかい?」


 クスクスと笑いながら答えるギルベルトに対し、ラウラは苛立ちを覚えた。


「違います」


「それは残念だな。まあ、僕はそんなに多情な人間ではないから安心して」


 どの口が言うのか人たらしめと思いながらも、ラウラは続きを促す。


「それで、どうだったんですか」


「僕が見たところ、現時点では君が懸念していた兆候はなさそうだよ。直接触れても見たけど、そちらも大丈夫そうだったし」

 

「それなら良いのですが。というか触ったんですか」

 

「他人へ魔力干渉するのは、肌に直接触れていた方が効率的なのだから仕方ないだろう」


 大げさに肩をすくめながら、ギルベルトは悪びれる素振りもなく答える。いつもならイライラするところだが、それよりも魔力干渉という言葉に引っかかりを覚えた。


「まさか、魔力を使ったのですか」


「多少、魔力の流れを見るためにね。大丈夫、ちゃんと回収できる分は回収したよ。ララが気にかけるといけないと思って、わざわざ別の用事を言いつけて外させたのに口が滑っちゃったね。ララは僕を頼ることがあんまりないから、ちょっと張り切っちゃったんだよ」


 ギルベルトはごめんねと言いながらラウラの傍に寄り頭を撫でる。子供扱いされていることに気にも留めず、ラウラは頭を撫でていたギルベルトの手を握った。



 暫くその状態が続いた後、席に座り直して話の続きをする。

 

「確かに僕の髪色とそっくりだね、アオイ君は。けど、僕みたいなのが稀で何もない人間は殆どなのだからそんな気にしなくていいと思うけどな」


「わかってはいるのですが」


「まあ、何かあったら頼るように言ったから、異変があれば来るんじゃないかな。ララはお友達の事もあったから気になるのだろうけど、彼にしろ彼女にしろ、僕とは違って身体への影響は些細なものだろうから、そこまで気にしなくていいと思うよ。彼はともかくアオイ君については、彼女がうちの師団に入らなくとも、お友達のジーク君はたぶん内に入ると思うから、そこ経由で多少気にかければいいと思うよ」


「はい……」


「今日のララはいつになく弱気だな。いつも気張ってばかりだから、可愛らしくていいと思うけど」


 ギルベルトに揶揄われ、ラウラは更に弱気になりかけるが、このままではいけないと思いなおす。

 気持ちを切り替えるためにもいつも通りを心がけ、憎まれ口をたたく。

 

「今日一日業務が出来なかった分、明日はきびきび働いてもらいます」


「明日は明日の僕が頑張るさ。今日は疲れたからご飯でも食べに行こう」

 

 そう言ってギルベルトは立ち上がり、店の名前をつぶやきながら支度を始める。ギルベルトの口からラウラが気に入っている店の名前ばかり出てくるのを聞いて、ギルベルトの気遣いを嬉しく思いながら、ラウラも支度をするために部屋を後にした。

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