28話 魔法訓練補習編(3)
第4師団師団長の名前をアルミンからギルベルトに変更しました。
それに伴い26、27話も変更しています。
ご了承ください。
何度か魔力の出し入れを繰り返すとギルベルトは手を放してくれた。そのまま横に立ち、蒼を見守り続ける。最初からこの立ち位置でよかったのではと蒼は思ったものの口には出さなかった。
その代わり、気になっていた疑問を口にする。
「どんなに保有魔力量が多くても、魔力を戻すのは必要なのですか」
「まあ、君ほど魔力がすごく多かったらあまり必要性は感じないかもしれないね。でも、出来るようにしておいた方が良いよ。どんなに魔力が多くても魔力は有限なのだから」
「自分の魔力が取り込めるのなら、他人の魔力も取り込むことが出来るということですか」
「理論上は可能だね。ただお薦めはしないよ。体外に出した魔力が操れるのと同じで、他人の魔力は取り込んでもすぐには自分の物にはならない。相手にも魔力が操作できる状態になっちゃうから危険なんだ。それに属性が違う魔力を多く取り込めば、拒否反応を起こす場合もある。基本的には自分の魔力だけしか使えないと思っておいた方が良い」
光、闇属性は身体や精神に対して使用する性質上、拒否反応を起こすことは少ないらしいが、水、火、風、雷属性は拒否反応が起きやすいらしい。
質問に答えてくれるギルベルトの横顔を見ながら、蒼は何か引っかかりを覚えたがその正体はわからなかった。
「魔力の出し入れは上手く出来るようになったね。じゃあ、次のステップに進もう。今度はこの靄を属性のものに象っていく。風なんかだとイメージしにくいから難しいんだけど、君の場合は氷で固形だからわかりやすいね。今までも出しているし。出した靄を固めていくイメージで少しずつ凍らせてみて。こぶし大の氷を出してそれを取りこむところまでやってみて」
蒼は先ほどと同じように手のひらに意識を集中する。魔力操作に慣れてきたのか、こちらは滞りなく出来た。
ただ魔力はそんなに減っていないものの、慣れない操作のせいかずっと集中していたせいか、蒼はかなり疲労感を覚えていた。
「おお、こっちはすんなり出来たね。うんうん。これだけ出来るようになれば、しばらくは大丈夫じゃあないかな」
「それは良かったです」
蒼はこれで皆に追いつけるのかとほっとする。だが、ギルベルトは蒼に現実を突きつける。
「ただし、ここからが大変だよ。アオイちゃんはこれで疲労困憊だけど、実戦ではこうはいかないからね。集中せず無意識で魔法を使えるようになることが目標。相手が魔物であれ、人間であれ、戦闘中にいちいちこんなに集中していたら殺されるだけだからね」
ギルベルトの言うことは尤もなので、蒼は頷く。先はまだ長そうだが、補習を受ける前とは違い、蒼は前向きな気持ちになっていた。
「まあ、気負わずゆっくりやっていけばいいと思うよ。そろそろ集中力も切れてくると思うし、休憩しようか」
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訓練場から少し離れた建物の中に案内される。蒼の記憶が正しければ、この建物は騎士達の寮の認識だったはずだ。応接室等を使うと考えていたので疑問に感じたものの、おとなしくついて行く。
案内された部屋に入ると、やはり寮の私室で間違いないようだ。部屋の中は広めのワンルームといったところで、部屋の中には小さな台所があったり、衝立の奥にはベッドも見える。
「僕の私室で悪いね。本当は師団長室を使った方が良いんだろうけど、そっちは今ラウラが使っているからさ。お茶を出すから適当に座って待っていて」
言われるがまま部屋にあったテーブルセットの椅子に腰を下ろす。机の上には研究資料だろうか、紙が散乱していた。
しばらくすると盆の上にポットとマグカップ、焼き菓子、瓶に入ったジャムを乗せてギルベルトが戻ってくる。慣れた手つきで卓上の資料を脇に寄せると、お茶をカップに入れ蒼の目の前においてくれた。
「お茶でよかった?一応コーヒーもあるけど。砂糖とかミルクは使う?」
「大丈夫です。あの、お構いなく」
「ならよかった」
そう言ってギルベルトも蒼の正面の席へ座る。自身のカップにもお茶を注ぐとそこにジャムを投下した。
正面に座り微笑みかけるようにこちらを見ているギルベルトに対し、居心地の悪さと何とも言えない気持ちを感じながら蒼はお茶を口にする。
最初はヴァイデンライヒ家の話や魔法の話をしていたが、しばらくしてギルベルトは蒼について質問を投げかけてきた。
「アオイ君は異世界から来たんだよね。その髪の色は元から?」
「はい。こちらに来てから若干青っぽく見えるようになりましたが、元から黒髪です。それが何か……」
「いや、僕も似たような色だから親近感を覚えちゃってね」
そう言われ、改めてギルベルトの髪を見れば、確かに青みがかった黒髪をしていた。ただ黒というより灰に近い色だと蒼は感じる。
コツコツと扉が叩かれる音がする。返事をしないうちに扉が開かれるとそこにはしかめ面をしたラウラが立っていた。
「探しましたよ、師団長」
「ラウラ、ご苦労様。ということは、タイムリミットかな。忙しなくて申し訳ないが今日はここまでだ、アオイ君。ラウラ、正門まで送ってやってくれ」
「わかりました。アオイ、行きましょう」
ラウラに促され、蒼は部屋を出ようと席を立ち扉へ向かおうとすると、それを阻止するようにギルベルトに手を引かれた。急に引き寄せられた蒼はよろけてしまい、ギルベルトにもたれかかるような体勢になってしまう。
「なっ」
体を屈めて顔を寄せてくるギルベルトに、現実逃避なのか、この人思ったよりも背が高いなと蒼は全く関係ない事を考える。
「何か君自身のことで気になる事が出来たら訪ねておいで。僕は嘘つきだけど君の敵じゃないと思うから」
蒼の耳元でそんな言葉を囁いたギルベルトは、何事もなかったかのように離れ、蒼に笑いかけるとそのまま部屋へと戻って行った。
うちの師団長が申し訳ないとラウラに謝られながら、最近こんなこと多いなと蒼は遠い目をしていた。




