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22話 訓練生生活(2)

「いやあ、せっかくアオイちゃんが誘いに乗ってくれたというのに、来られないなんて。ヴェンもタイミングが悪いなー」


 2人で卓を囲みながらジークが述べる。口では残念そうな言葉を発しているが、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 ヴェンツェルも来るのであれば、と誘いを受けた蒼だったが、肝心のヴェンツェルは本日用事があるようで結局2人で食事に行くことになった。

 場所は平民出身の騎士達によく利用されている、リーズナブルな価格設定の大衆食堂。食事を済ませ、少しばかりのつまみと酒を飲みながら語るのがいつもの流れだった。

 この世界では16歳で成人に当たるため、蒼も軽めの果実酒を飲んでいる。ジークはといえば、あまり酒に強くないにもかかわらず、顔を赤くしながら度数高めの酒をちびちびとなめるように飲んでいた。

 

「アオイちゃんは騎士団には慣れたかなー?」


「だいぶ、ね。最初はどうなるかと思ったけど」


「なめられっぱなしより全然いいよー。俺は最初酷かったからねー。ヴェンと一緒にいるようになって、嫌がらせの類いはピタッと止んだんだけどさ」


 平民出身の騎士に対しては風当たりが強いようで、その多くは正式な配属を待たずに辞めていくらしい。逆にいえば、最終的に残るのは実力者ばかりとなるため、平民出身の騎士は強者ぞろいだそうだ。

 

「ヴェンは本人の強さもあるけど前が軍属だったこともあって、どちらかといえばリーダーよりだよね。人心掌握に長けてるというか」


「確かに、そんな感じはするな」


 蒼は班に分かれて行った訓練を思い出す。たまたま、蒼とジークは同じ班でヴェンツェルのみ違う班だったのだが、ヴェンツェルが班長を務める班はなかなか手ごわかった。自身は全く手を出していないのに、陣形を崩すことが全く出来ず、結局蒼とジークが力ずくで勝ちを取ったのだ。

 とにかくヴェンツェルは人を動かすことに長けており、同期の面々から尊敬のまなざしを受けていた。

 

「それに比べてアオイちゃんは恐怖の対象だからなー」


 ジークはこう言うが、言っている本人もどちらかといえば恐怖の対象だと蒼は認識しているので、つい顔をしかめてしまった。


「あれー、アオイちゃん怒っちゃった?」


「別に」

 

「怒ったアオイちゃんも可愛いなー」


「怒ってないって言ってるだろ」

 

「怒ってないならさ、いつもの話聞かせてよ」

 

 そう言ってジークは蒼に催促する。いつもの話とは蒼が前に居た日本の事だ。


「ジークは本当にその話が好きだな。たいして面白くないと思うんだけど」


「すごく興味を惹かれるし、俺からしてみれば面白い話ばかりだよ。いつか騎士を辞めたら研究職にでも就いて、アオイちゃんの話に出てくるいろいろなものを作ってみたいなーって」


「騎士になる前から騎士を辞した後の話か」

 

「手っ取り早く稼げるから騎士になろうと思っただけど、本来の俺は平和主義者なんだよ」


 出稼ぎ目的のため騎士団に入ったが、あまり争い事は好ましく思っていないので、早々に研究職に着きたいということらしい。

 ただ、平和主義者と言いつつ、気持ちの切り替えは完璧で、容赦なく相手を打ちのめすのだが。


 魔法がないかわりに科学技術が発展していた蒼の世界の話を聞いて、それをいつかくる将来に役立てたいという。ヴェンツェルのいた世界はこことあまり変わらないようなので、ジークは蒼の話が面白いらしい。


「しょうがないな」


 蒼はいつものように元の世界の事を思い出しながら語るのだった。



――――――――――――――――――――

 

 明日の訓練が休みということもあり、かなり遅くまで話し込んでしまった。

 会計を済ませ店を出る。

 

「じゃあ今日はもう帰るよ」


「いや、送っていくよ」


「一人でも大丈夫なのに」

 

「いいから、いいからー」

 

 このやり取りもいつもの事で、ジークは律儀に蒼をヴァイデンライヒ亭の前まで送ってくれる。暴漢などが現れても返り討ちにする自信もあり、かつジークの家は正反対のため、ついてこなくていいのにと蒼は考えていた。

 ヴェンツェルなんて「じゃあ、また明日」などと言い、すぐに帰るというのに。

 

 また、送って貰うと恋愛ものが好きなクリスティアーネにからかわれることもあり、恥ずかしいので毎回断っているのだが頑なにジークは譲らなかった。



「じゃあ、今日は付き合ってくれてありがとう。今度は第4師団での訓練で、かな?」


「多分そうなるだろうな」

 

 第3師団の下での訓練は今日までだった。

 5日間の休暇を挟んでから、第4師団の下で魔法中心の訓練を受ける事になる。


「5日もアオイちゃんに会えないなんて寂しいな」

 

「良く言うよ。ここまで送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってくれ」

 

「じゃあ、おやすみ。アオイちゃん」


 そういうなり、ジークは蒼にハグをしてきた。

 

「お、おい」

 

 蒼は思わずジークを投げ飛ばそうとするが、ひらりと躱わされてしまった。

 そのまま蒼が呆然としていると、ジークはくるりと身を翻し「またねー」と言いながら去っていく。


 暴漢に襲われても返り討ちに出来ると自負していた蒼は身近にいた変態に太刀打ち出来ず、凹んだ。 

 とぼとぼと歩き、ふと視線を上げれば、窓からのぞいていたクリスティアーネと目が合う。この後、どんなからかいを受けるのかと絶望しながら屋敷への門をくぐった。

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